第109話:交換条件
リアース歴3237年 1の月1日8時前。
5日間の大母神テーラ感謝祭をラウの町でゆっくりと過ごした俺達は、仕事始めの次の町までの護衛依頼を受けた。
依頼内容は城塞都市ルザクまでの乗り合い馬車の護衛で、約3~4週間の旅である。
出発する1の月1日朝8時の30分前に集合場所にやって来た俺達。
待っていたのは、何とあのダリア一家であった。
「「ゲっ!」」
「キュ!」
「?」
俺とアイシャ、イナリが彼女らを発見して絶句する。
リンは、よく分かっていない様だ。
「ゲっ!とは何よゲっ!とは」
「その言葉通りだと思うけど!」
「そうよそうよ!」
「相変わらず、小生意気な夫婦だねぇ!あら?お一人増えた様ねぇ?」
「あぁ、俺達の大事な仲間だ」
「主様、このバカそうな連中は誰で御座いますか?」
バカそうな連中!
うん、見事に的確な判断だリンよ。
「見事!よくおバカな連中だと分かったねリン」
「キーーー!揃いも揃って小生意気な」
「そっちも揃いも揃っておバカだよな!」
「ムッキーーー!泣く子も笑うとう#$%&%!」
喋るダリアの口を慌てて塞ぐ子分1・・・確かズラ何とか云う名前だったっけ?
ズラ何とかは『盗賊』と言わせない様に口を押えたんだろうな、たぶん。
「く・苦しいじゃないかズラビス!」
そうそう、ズラビスだ!
ズラの部分は頭のカツラと連動して覚えていたんだけど、ビスまでは覚えられなかったわ。
まぁ、覚える必要もないけどさ・・・
「ダメですよお嬢!こんな所で大声で盗賊何て言っちゃあ」
小声でボソボソとダリアに説明するズラビス。
それでも俺達には聞こえているからな。
「主様、彼女らは盗賊なのですか?」
「嫌、ただのお笑い芸人だよ!」
「ち・違うわよ!」
「まぁ、どっちでも良いよ!それにしても懲りずによくここまで追い掛けて来たなぁ。
その無駄な根性には脱帽だよ!」
「褒めないでよ!」
「褒めてねぇよ!」
「お嬢、今のは褒めてませんよ!」
「え!そうなの?」
こいつやっぱりアホだわ!
「で、又イナリを狙って待ち伏せか?」
「お待ち下され!確かに狙ってはおりますが今は違います。
今は貴方達と一緒で護衛依頼の追加募集としてここにいるだけです」
ズラビスがダリアの代わりに説明する。
「俺達と一緒で護衛依頼?」
「その通りです!」
「と云う事は城塞都市まで一緒に護衛として行くと云う事か?」
「ハイ、その通りですよ!」
「マジか!」
「ふふふふふ、私の情報網から逃げられないのですよ」
ヒェ~!何と恐ろしい奴だ。
「でも、何で一緒に護衛の仕事なのさ?そんな事しなくてもイナリを捕獲すればそれで終わりだろ?」
「か・金が無いのよ・・・」
ダリアがボソっと言った。
「いやいやいや、その金を稼ぐためにイナリを捕獲して売るんじゃなかったのか?」
「私達がそう簡単に捕獲に成功するとお思い?」
自信満々でそう言われても困るんですけね。
しかも、自分でほぼ無理だと言ってやがるよこの人・・・
つ・疲れる!
女と話すと疲れるからこっちのズラビスと話そうっと。
「で、護衛で金を稼ぎながら隙あらばイナリを!と云う事か?」
「ご名答です!流石、鉄壁殿」
「褒められても嬉しくないわ!」
「でも、俺達と同じ依頼をよく引き受ける事が出来たなぁ?
俺達だって欠員が出たから引き受ける事が出来たのに。
俺達がこの依頼を受けた事が分かったから、この依頼に参加したんだよな?」
「勿論です!」
「と云う事は・・・ハっ!俺達と同じ様に追加募集って言っていたよな?」
「その通りです!」
「もしかして・・・」
「察しが良いですねぇ。流石、鉄壁殿」
「身代わりになった3名は無事なんだろうな?」
「勿論ですよ!私達ダリア一家は殺しは好みません。
下剤を使ってしばらくの間トイレの住人となって頂いているだけですよ」
「えげつねぇ・・・」
「それは褒め言葉として受け取らせて頂きます!」
「フン!まぁ、良いさ。
だけどさぁ、俺が依頼人にアンタ達の事をバラシたらそれまでとは思わなかったのかい?」
「勿論ですとも!そこで取引を致しませんか?」
「ヘっ!取引?」
「ハイ、その通りです!鉄壁殿は、確か世界の成り立ちや理を求めて旅をしておられるのですよね?」
「そんな事までよく知っているな?」
「先ほども言いましたが、私の情報網は凄いのですよ!」
何だこいつ!
本当にそら恐ろしい奴だよ。
「で、取引とは?」
「一つ不思議な洞窟についての情報を知っています。
その情報を教える代わりに我々の事は黙っていて頂きたい」
「盗賊と一緒に旅をしろっって云うのか?イナリを狙っている奴らと」
「その通りです!
黙っていて頂けるなら、道中は聖獣殿を狙わないとお約束も致しましょう。これでなら?」
「ん~~・・・」
俺はここで考える。
相棒のイナリを危険に晒してまで、情報を得てどうなる?
でも、危険と言えるほどの奴らでもないからなぁ。
自分達でダメ盗賊と烙印を押している様な奴らだし・・・
でもなぁ・・・
「貴方迷っているの?」
アイシャが俺の顔を覗き込む。
「あぁ、うん!イナリの身を考えると当然受けるつもりもないんだけど、こいつらアホだしさ。
その心配もないのかなぁってね」
「アホ言うな!」
「お嬢は黙っていて下さい!」
「洞窟の情報が気になるの?」
「そうなんだ!自分勝手だと分かっているんだけど、ようやく掴みかけた手掛かりかと思ってさ・・・」
「確かにそうよね・・・」
沈黙の時間がしばし流れる。
俺はどうしたら良い?
考えが決まらない。
この沈黙を破ったのはダリアだった。
「では、私を抱かせて上げる云う条件も付ける、これでならどうだ?
お前の好きな様にして良いぞ!」
「好きな様に・・・あぁ、あんな事やこんな事かしら・・・キャっ、恥ずかしい!」
リンがダリアの抱かれる発言に顔真っ赤にして妄想を始める。
お~い、帰って来~い。
今は妄想をしている場合ではないぞ~。
「それはお断りする!間に合っているからいらん」
即答する俺。
ズラビスはダリアの横で頭を押さえている。
こんな奴を頭目として大丈夫なのかズラビスよ。
「そ・即答!な・何よ、少しくらいは考えなさいよ。
女としての魅力に自信が無くなるじゃないか~!」
「最初からそんなもんないじゃないか!」
「キーーー!アンタはいつもいつもバカにして~」
あぁ、もう煩い!
やはりこの交換条件は断ろう。
「貴方、この交換条件を受けましょう!」
「え!あんな女を抱くの?」
「違うわよおバカ!それじゃなくて最初の情報の事よ」
「じょ・冗談だってばよ~!でも、本当に良いの?」
「うん、甘いのかもしれないけど、そう悪い人達には見えないのよね。
生活も困っていそうだしさ」
生活に困っているのは自業自得だから俺達が気にする事ではないと思うけどね。
でも、アイシャの言う通り悪い奴らには見えないんだよなぁ・・・
「イナリちゃんなら、この人達には絶対捕まらないわよ。断言しても良いわ!
ね、大丈夫よねイナリちゃん?」
「キュキュ~!」
(大丈夫だよ~!)
「主様、イナリ殿は大丈夫だと言っておられます!」
「そっか!済まないなイナリ!」
「キュキュ!」
(気にするなって相棒!)
「イナリ殿は・・・」
「分かっているさ!そうだろ相棒!」
俺はリンの通訳を遮る。
言葉は分からなくて長い付き合いの相棒の考えはだいたい想像がつく。
俺は心の中でイナリに感謝した。
こうして交換条件を受け入れた俺達は、ダリア一家と共に護衛依頼をする事になったのであった・・・
次回『第110話:ミニボウガン』をお楽しみに~^^ノ