第105話:ラウの滝で
リアース歴3236年 12の月26日12時過ぎ。
ラウの滝は雄大かつ幻想的な所であった。
流石世界の絶景スポットの内の一つとして有名な訳だよ。
俺達はしばらくの間、この素晴らしい景色をただ黙って見つめていた。
あぁ~、見ているだけで何だか癒されるわ~。
あっ、確か滝の水しぶきからはマイナスイオンが発生しているんだっけ?
もしかしてその影響何でしょうかねぇ?
まぁ、どっちにしても癒されているんだから良いか。
俺達はこのラウの滝で1泊する事に決めた。
今日1日ここで英気を養う事にしたのだ。
昼食後は皆で薬草摘みを始めた。
綺麗な滝の傍には至る所に薬草がある。
冬の時期で、これだけの薬草が取れるのは有り難いな。
俺達は休み休みゆっくりと薬草摘みをする。
休む度に眺める滝の風景は本当に心を癒してくれる。
「何時までも見ていたいわね!」
アイシャが俺の方に寄って来る。
「そうだね!何時までもこうしていたいよね」
「まるでここだけ時間がゆっくりと流れているかのよう・・・」
アイシャは俺にピタリと寄り添い、俺の左肩に頭を乗せて来る。
「このまま時間が止まってくれれば良いのにね!」
「そうね!そうしたら貴方と何時までも一緒に居られるのに・・・」
「あぁ~、こんなにゆったりとした気持ちになったのは何時以来だろうなぁ?」
「ず~っと忙しかったもんね・・・」
思い出せないほどに忙しい生活を送って来たんだろうな・・・この世界に生まれたからずっと。
生きるため、嫌、生き抜くために小さな頃から修練の日々だった。
親を亡くして孤児になってからは尚更大変だったっけ。
大人になってアイシャと結婚してからも忙しい日々だったな。
人生を振り返る余裕もなかったほどに・・・
「せっかくの新しい人生なんだ!
これからは無理をせずにもう少し余裕をもってゆったりと生きて行こうね!」
「そうね!せっかくの新しい人生なんだもんね」
「俺は君とさえ一緒に居られればそれで良いんだ!」
「私もそうよ!」
「ゆったりし過ぎてあまり裕福な生活をさせて上げられなくても許してね」
「今、言ったでしょ!貴方と一緒ならそれで良いの。貧乏でも構わないわ」
「有難う・・・」
時間が経つのも忘れて二人で滝を魅入る。
本当にこのまま時が止まってしまえば良いのになぁ。
「ハァー、お二人共何て素敵なのかしら!羨まし過ぎですわ。
私も何時かは素敵な殿方と燃える様な恋をしたいです・・・」
遠くからルークとアイシャのイチャイチャシーンを見ていたリン。
彼女はルーク達と行動を共にする様になってから、二人のイチャイチャ振りを何度も何度も見せつけられて来た。
元々妄想癖がある彼女であったが、リアルで見せつけられる事によって彼女の妄想は一層膨れ上がり、すっかりと恋する乙女となっていた。
より一層残念なダークエルフとなって行くのであった・・・
「あれ!イナリ殿は何処へ行かれたのかしら?イナリ殿~!」
「キュキュキュ~!」
(こっちだよ~!こっちの方から濃い薬草の匂いを感じるの~)
「えっ、濃い薬草の匂い!主様にお知らせねば」
良い雰囲気のまま静かに滝を見ていた俺とアイシャ。
すると急にリンが遠くから声を掛けて来る。
「主様~!イナリ殿が何か薬草の群生地を見つけたみたいです~」
薬草の群生地か。
もう少し甘い雰囲気を味わっていたい所だったけど仕方がないか。
「アイシャ行こう!」
「そうね!」
俺達はイナリの後を着いて行く。
イナリは滝が落ちる場所を指示する。
「ん!イナリ本当にここなのか?」
「キュキュキュ~!」
(滝の裏側~、洞窟になっているよ!)
「えっ、それは本当で御座いますか?」
「キュ!」
(うん!)
「イナリは何て?」
「滝の裏側が洞窟なっていて、そこにあると言っておられます」
「「滝の裏側?」」
「ハイ!」
オイオイ、滝の裏側かよ。
このくそ寒いのに、濡れたら凍え死ぬじゃねぇかよ。
あ~止め止め!
そんな思いまでして薬草摘みする必要なし。
先ほどもう無理しないって決めたんだもん。
「濡れてまでして薬草摘みは止めよう。こっちで生えている分で十分だよ。
無理しないでおこうよ」
「そうよね!」
「キュキュキュ~!」
(魔薬草だけの良いの?)
「魔薬草と言っておりますがよろしいのですか?」
「え!・・・魔薬草!」
「ハイ!そう言っておられますが・・・」
「・・・行くぞ野郎共!ワ~~っハッハッハ、一攫千金じゃ~!」
ヒャッホー!大儲けじゃ~。
「あ・貴方・・・」
「主様・・・」
ガクッと項垂れるアイシャとリン。
え!どうしたの?
「そうなのよ・・・何時もこうなのよ!
あの人の言葉でコロっと乙女心を擽られるんだけど、最後の最後で必ずオチがつくのよ!」
「一瞬でも主様が素敵と思った私がバカでしたわ・・・」
「リンちゃん覚えておいてね。あの人はそう云う人なのよ・・・」
「分かりました奥様・・・」
「「ハァーーー!」」
え!何々?
二人して盛大なため息をついてさ。
俺がどうかしたの?
ねぇ、何なのよ~~~!
魔薬草をゴッソリ摘み取った俺はホクホク顔であった。
500束以上摘み取ったので、これをマジックポーションにして売れば金貨2枚(日本円で20万円相当)以上となる。
大儲けじゃ大儲けじゃ!
ただ、滝の裏に行くのには水に濡れなければならなかったので、皆びしょ濡れになった。
冷え切った身体を温めるために俺は滝の畔に露天風呂を作った。
綺麗な水は豊富にあるのだし、炎の精霊術を付与した魔石も持っているのでお湯を沸かすのは簡単だ。
雄大な滝を見ながらの風呂と洒落込もうではないか。
「準備終わったよ!滝でも眺めながらゆっくりと入ろうぜ~」
「まぁ、素敵な露天風呂!」
アイシャが目を輝かせて喜ぶ。
「露店・・・風呂で御座いますか?それはいったいなんで御座いましょうか?」
リンは首を傾げる。
あぁ、リンには分からないか。
「お風呂って分かるかしら?」
「いや、全く分かりません!」
エルフ族はお風呂に入る習慣はないみたいだなぁ。
「身体を清める時はどうしているの?水浴びとかかしら?」
「ハイ、その通りです。水浴びする所がなければ濡れたタオルで拭くくらいです」
「そっか~、やっぱりエルフ族にはお風呂の習慣がないのね。
お風呂って温かくて凄く気持ちが良いのよ~。さぁ、一緒に入りましょうね」
「そうなのですか・・・では一緒に入らさせて頂きます!」
「ウンウン、ご一緒にご一緒に!」
「貴方は一人で入ってね!」
「へ!・・・な・何で?」
「決まっているでしょう!リンちゃんがいるんだもの。
嫁入り前のうら若き乙女の肌をスケベなお猿さんに見せる訳にはいかないでしょ」
「ス・スケベなお猿!・・・ウゥ、酷いよ。アイシャと入るのを楽しみにしていたのに~」
「リンちゃんを一人で入れさせる訳にも行かないでしょ。今回は我慢して下さい!」
「ハウゥ~!」
「主様、何だか申し訳ないです・・・」
「いや、アイシャの言う事も分かるから、リンが気にする事はないよ・・・」
俺は悲しい気持ちでシュンとなり、俺のムスコもシュンとなる。
済まないムスコよ、期待をさせてしまって申し訳なかった。
今回だけは我慢をしてくれ~。
ムムム!イナリの奴、女性陣と一緒に入ろうとしてやがる。
「イ・イナリはそっちで良いの?」
「キュキュ!」
(余計な事を言うな!)
イナリが俺を睨む。
俺もイナリを睨み返す。
テメェだけ許されると思うなよ。
死なばもろともじゃ!
「イナリちゃん!」
「キュ?」
(ハイ?)
「イナリちゃんはルークと一緒ね!」
「キュ~~~!」
(え~~~!)
「分かったわね!」
「キュ!」
(ハイ!)
アイシャには逆らえないイナリ。
ウケケケケ!ざまぁみろ!
テメェだけ良い思いは絶対にさせないのだ。
俺は大きな浴槽に泣く泣く衝立を立てた。
これで何とかアイシャに許しを貰ったのだ。
二人の裸を拝む事は出来ないけれど、同じ湯に浸かる事は出来た。
皆は知っている?
うら若き乙女の入ったお湯を呑むと若返るって都市伝説があるんだよ。
ウソです、そんな訳ないです、ゴメンなさい・・・
衝立の向こうからキャッキャ!ウフフ!と二人の若き乙女の声が聞こえて来る。
女同士で胸の触りっことかしていないだろうな?
アイシャの乳神様がお湯に浮いているんだろうなぁ。
リンの胸もそこそこあるので同じく浮かんでいるのだろうか?
・・・ウォ~~~、妄想が掻き立てられる~。
ムスコが暴れ出したじゃないか~。
これじゃ逆に生き地獄だよ~。
チックショーーー!
「貴方うるさいわよ!」
「ハイ・・・」
こうしてラウの滝で癒されるはずだった俺は、悶々と過ごす事になるのであった・・・
次回『第106話:1年の始まり』をお楽しみに~^^ノ