第104話:懐かしのカレーライス
リアース歴3236年 12の月25日。
リンが新たに仲間となり、旅は3人と1匹になった。
一人増えた事により戦闘はグーンと楽になった。
壁役は相変わらずの鉄人君で、遠距離での攻撃役はこれも変わらずアイシャ。
俺はサブ壁役兼近接攻撃役で、リンとイナリは偵察役兼遊撃役となった。
リンの闇の精霊術はとても素晴らしい。
影によって少し離れた所からでも相手の動きを封じ込める事も出来るし、薄暗い場所なら身を隠しながら相手に近づいて戦闘する事も出来る。
短刀を使っての二刀流の戦い方はまだまだだが、苦無を使っての中距離からの攻撃も出来るし、身の軽さを利用しての相手を翻弄する戦い方は目を見張るものがある。
索敵、攻撃、サポートと何でもこなすので非常に有難い存在なのだ。
欠点を上げるなら、人から隠れる様に生きて来たので全般的に常識が乏しい事かな。
エルフ族特有の変化を嫌う性格もあって、新しい事や戦い方を学ぶのが苦手なのだ。
まぁ、これは時間を掛けてゆっくりと覚えて貰うしかないであろう。
道中、戦闘訓練をしながら進んでいるので、ラウの滝へ到着するのが遅れている。
計算では3日くらいを予定していたが5日になりそうだ。
たぶん、明日中には着くであろう。
今は4日目の野宿の用意をしている。
「主様、ラウの滝はもうすぐですかねぇ?」
「たぶん、明日中には着くと思うよ。耳を澄ませば、滝つぼに落ちる水の音が聞こえて来るだろ?」
「あっ、本当ですね!微かに聞こえます」
「でしょ!」
「貴方~、リンちゃ~ん、夕食の準備が出来たわよ~」
簡易型竪穴式住居の中からアイシャの声が聞こえて来た。
俺とリンは薪拾いを止めてアイシャの元へと急ぐ。
今日1日は戦闘訓練でお腹がペコペコだよ。
竪穴式住居の中から良い匂いがして来る。
これはもしかして・・・
「ん~、凄く良い匂いがします!奥様、今宵の食事は何で御座いますか?」
「今晩はカレーライスよ!」
やっぱりそうか!
愛子のお母さん直伝のカレーライスだ。
この匂いを忘れる訳がないよ。
「カレーライス?」
「異文化の料理だよ。アイシャの得意料理の一つさ」
「そうなんですか~!では早く食べましょう」
「リンちゃん待って!ちゃんと手を洗った?」
「あっ、洗ってないです・・・」
「ダメよ!ハイ、これで手を拭いて」
「かたじけないです!」
リンはアイシャから濡れたタオルを受け取り、手の汚れを拭き落とす。
俺もアイシャからタオルを受け取り手を拭いた。
薪を拾って来た手は真っ黒で、白いタオルが見る見るうちに黒くなる。
「さぁ、これで良いかな?では頂きます!」
「「頂きます!」」
「キュ!」
(頂きま~す!)
スプーンにゴーハンとカレーのルーを山盛りに乗せて口に運ぶ。
カレー独特の味が口いっぱいに広がって行く。
ん~、懐かしい味だ!
愛子のお母さんのカレーは、スープカレーの様なサラっとしたルーではなく、何日も煮込んだかの様なドロリとした昔ながらのカレー。
確か隠し味はハチミツとリンゴ、チョコレートだったっかな?
アイシャは見事にあの味を再現しているよ。
この世界ではまだチョコレートは無い様だけど、何か別の物を代用したのだろうか?
流石アイシャだな。
スパイスも効いていて美味しい!
「美味しいよアイシャ!」
「貴方有難う!とても嬉しいわ」
「こ・これは初めての味です奥様!あぁ~何て美味しいのかしら~。
少し辛いけど、病みつきになりそうな味・・・し・幸せです~!」
「嬉しいわ!沢山あるからいっぱい食べてね。
今日は戦闘訓練で特にお腹が空いているでしょ?」
「ハイ!お代わり頂きます」
「俺もお代わり!」
「キュ~!」
(僕も~!)
「あらあら大盛況で嬉しいわ!」
アイシャはとても嬉しそうにお代わりを注いで行く。
良かったねアイシャ。
お母さんのカレーが喜ばれているよ。
俺達は一つ一つ昔を取り戻しているんだね。
ゆっくりで良いから、これからもいろんなものを少しずつ取り戻して行こうね。
こうして楽しい夕食タイムは終わった。
お腹がいっぱいになると急に眠気が差して来る。
でも今晩はまだまだやる事があるから寝ていられない。
寝る前に防具の整備やポーション作りをしないといけないのだ。
今日は戦闘訓練の合間に薬草摘みもしっかりしていたのだ。
薬草を使ってポーション作りをリンに教える。
これから何時まで一緒に旅を続けてくれるか分からないけど、一人立ちをしてもポーション作りさえ出来れば何とか生きて行けると思ったからだ。
従者だけではなく、薬学の弟子となったリンは俺を一層敬う様になる。
美味しい料理を作るアイシャほどではないが・・・
5日目の朝、今日は戦闘訓練を中止して、まずはラウの滝に早く着く事を目標に行動する。
馬型鉄人君は3人乗りとなるため、今までより少しサイズが大きい農耕馬くらいになった。
手綱を握るのはリンだ。
リンの肩の上にはイナリがおり、目の良いリンと鼻と耳が良いイナリが新たに警戒コンビを組んで働いてくれている。
俺とアイシャはリンの後ろで、ただイチャついているだけである。
リンよこんな師匠で済まない!
でも少しぐらいは良いだろ?
昔を取り戻したいんよ。
えっ!もう充分取り戻しているんじゃないかって?
その通りですね、ゴメンなさいです・・・
激しく立ち並ぶ木々の間の獣道を馬型鉄人君がズンズンと進んで行く。
昼近くになると、滝つぼに落ちる水の音が一層大きくなって来た。
そして、急に視界が広がる。
ま・眩しい!
目の前には100mも高い所から、豪快に水がザァーと落ちて来る何とも雄大な景色が見えた。
水しぶきで虹の様な物まで見えるよ。
何て幻想的な風景なんだ。
これがラウの滝だ!
俺達は幻想的なラウの滝にしばらく目を奪われていた・・・
次回『第105話:ラウの滝で』をお楽しみに~^^ノ