第99話:気配
リアース歴3236年 12の月20日。
俺達はラドの町を出て3週間ちょいでラウの町に着いた。
思いの外のんびりし過ぎた旅路でした。
道中、ブラックウルフの群れに2回ほど襲われヒヤッとした事もあったけど、ハンナ師匠特製の魔物除け薬のお陰で難なく逃げ出す事が出来た。
後は低ランクの魔物に何回か襲われただけなので、どちらかと言えば楽な旅路だったと思う。
ラウの町に着いた翌日は、旅の疲れを癒すために観光や買い物で1日のんびりと過ごした。
この町は観光するほどのスポットは特になかったけれど、次の旅路に向けての食料の買い足しなどがあったので買い物の方に時間が取られた。
アイシャの買い物が止まらない事止まらない事。
荷物持ちのこっちはもう大変~。
この町にお米もどきのゴーハンが売っていて助かった。
もうゴーハンなしでは生きられない身体になってしまったのよ。
と云う事で今回は大量にゴーハンを買いました。
宿に持って帰るのに苦労しましたよ。
俺だけ全然のんびりとした休日じゃねぇよと心の中でアイシャに文句を言ったのは言うまでもない。
鉄人君、明日からの次の旅路には負担が更に増えてスマン!
次の旅路・・・そう、俺達はすぐにラウの滝を目指して出発する。
ラウの滝は、この町の傍を流れる川に沿って上流に向かって3日ほどの距離だ。
今年ももうすぐ終わるので、新年までにはラウの滝を見てこの町に戻って来たい。
新年をこの町で今度こそのんびりと過ごしたいのだ。
過酷な荷物持ちをする事なくのんびりと・・・
休日を過ごした次の日には、慌ただしくラウの滝目指して出発する俺達。
ここから先は土の精霊術で整備された道などない。
人の足で適当に踏み固められた獣道より若干マシな道が続くだけなのだ。
どんな道でも道があるならば馬型鉄人君で進む事が出来る。
俺の自慢の鉄人君は万能なのです。
俺達は鉄人君にまたがりラウの滝へと進んで行く。
進む先には雪化粧をした雄大なウララ大山脈がそびえ立っている。
デカいわ~!
ルタの村から見たラウラ大山脈みたいにデカく見えるわ~。
何だかルタの村から見た景色に似ている。
師匠やジーク、マレさんやアンジェ姉さんに孤児園の皆、ロットさんや受付カウンターのお姉さんズは元気かなぁ?・・・ン~、後誰か忘れている様だけど、まぁいいか。
この景色を見ているとルタの村を思い出してしまうので切ないや。
初日は薬草摘みと肉の美味しそうな魔物の狩りながら進んで行く。
綺麗な川の傍では薬草が生えやすいので、この時期でも幾らか薬草は生えている。
魔薬草は見つからないけど、薬草が取れるだけでも充分有難い。
時折、イナリの鼻が一角ウサギを捉えそれを狩る。
肉は確保したので数日は新鮮な肉を食べられそうだ。
初日は特に危険な事も無く無事に終わる。
2日目にニホンザルを一回り大きくした様な中ランクのマッドモンキーと云う魔物を何匹か見かけた。
木の上からこちらを警戒している様だが、まだ襲って来る素振りは見せない。
猿は群れる生物だ、もしかしたら近くに群れがいるかもしれない。
俺達に緊張感が走る。
俺もエッチなお猿さんだから仲間なんだよ~、お願いだから襲わないでね!
奴らはしばらく俺達の後を着いて来たが、途中で姿が見えなくなった。
イナリの鼻が言うには、奴らが居なくなったと言っている。
取りあえずマッドモンキーに襲われる危険がなくなったようで一安心だ。
俺を仲間と思ってくれたのかな?
それはそれでちょっとショックだけど・・・
冗談はさて置き、本当に良かった~!
危険が去ると急にお腹が鳴り出した。
太陽の位置から考えてそろそろ16時か。
もう少ししたら一気に暗くなってくるな。
野宿をする場所を中心にイナリの鼻に影響のない様に少し離れた位置に魔物除けの薬を撒いて行く俺。
その間にアイシャは食事の準備に取り掛かる。
魔物除けの薬を半分巻き終わった頃、何だか変な感じが俺を襲う。
(ん~~、なんだろう?誰かに見られている様な気が・・・)
俺は周りを見渡す。
ダメだ、分からん!
早くアイシャ達の所へ行こう。
イナリでないとアカンわ。
俺は手早く残り半分の薬を撒きアイシャ達と合流する。
「貴方、何かあったの?」
慌てて戻って来た俺の姿を見てアイシャが聞いて来る。
「何者かに見られている様な感じがしたんで慌てて戻って来たんだ」
「えっ、大丈夫なの?」
「イナリ、周りに何者かの気配が感じられないか?」
「キュ~!」
(特に感じないよ~!)
イナリは首を横に振る。
「そっか~、今のところ大丈夫そうだな!
済まないがイナリは特に周りに気を配っていてくれ」
「キュ!」
(了解~!)
野宿用の簡易型竪穴式住居の中で、たき火で暖を取りながら食事をする。
周りはすっかり暗くなって来た。
竪穴式住居の中の明かりは外に漏れる事はないので魔物に見つかる様な事はない。
部屋の中で暖を取っているけど、一酸化炭素中毒にならない様な空気穴の工夫もちゃんとしてあるから安心だ。
あれからイナリの鼻や耳では、何者かの気配は感じられない様だ。
あれは気のせいだったのであろうか?
嫌、そんなはずはない。
あの時は何者かが俺を見ていたはずなんだ。
俺は自分を信じる。
取りあえず用心するに越した事はないので、今晩は交代で見張りの番でもするか。
まぁ、この中に居れば襲われる事はないと思うが。
こうして2日目が終わろうとしていた・・・
次回『第100話:ダークエルフ』をお楽しみに~^^ノ