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ありきたりな異世界転生に物申す!  作者: 一二三五六
第一章 王道男と邪道女神
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第一章23『魔王が現れた▽』

 魔王が攻め込んできた。

 それを聞いて俺はすぐにミューの力を使って城に飛んだ。そこで目にした光景に、俺は思わず息を飲んだ。

 歴史を感じさせる白い城塞は火をつけた蝋燭のようにドロドロに溶けていて、城を飾り立てた色とりどりの花たちは、子供が遊び半分でぐちゃぐちゃに混ぜた絵具のようになっていた。そこにはもう、以前のような煌びやかな雰囲気はない、あるのはただカオスな空間だけ。


「なんだよこれ……」

「城も花も全部溶けてるお……」

「溶解のトゥーカ……その異名の通りってことか」

「ふーん、派手なことするのね魔王って」

「言ってる場合か!早くシエルのところに行かないと!」


 城がこうなんだ、あまり考えたくはないが城内やシエルたちも無事かどうかもわからない。何か起こる前に合流しないと……

 俺たちは固体だった液体物を避けながら城に向かう、入口の扉がは溶解していて開かなかったが、現在男の二人掛かりでなんとかこじ開けた。城内もご丁寧に溶かされ、階段もほぼ斜面になっている。


「きゃああああああああああああああああああああああ!!!」

「今の声……ッ!」

「シエルたんの声だお!」

「シエル姫!」


 名前を叫びながら強く踏み込んだ伊集院は、ブレイバーを使って加速した。このまま勢いに任せて溶けた階段を上る気か。


「待っててくれ、シエルひ――ボッ!」


 高速で動く伊集院は能力によって見事溶けた階段を上り切ったのだが、上るためにスピードをつけすぎたのか、そのまま壁に激突した。うわあ、すげぇ痛そう……


「あっ、俺変身すれば飛べるんだった」

「そ、そうだった……」

「じゃあさっさと私を運びなさい!」

「お前瞬間移動できるんだからいいだろ、ていうかシエルのとこ行って魔王なんとかしてこいよ!いつもみたいに!」

「嫌よ!今日はあと一回しか力使えないんだから、こんなことで無駄にしたくないの!」

「あーもうわかったよ」


 俺は諦めて変身し、ミューを抱えて階段を越えた。こいつが軽いのか俺に力があるのか、抱きかかえた時すごく軽かった。もう少し重くてもいい気がする。


「アツヒメたん、僕もお願いしたいお!」

「えー、お前もブレイバーでなんとかしろよ」

「僕のブレイバーじゃどうにもできないの!」


 腕を伸ばす篠原を、俺は仕方なく掴んで上に引き上げる。さっきのミューと違ってこいつは重いんだよな、少しは痩せてもいい気がする、ていうか痩せろ。


「あぁ~アツヒメたんのスベスベお手々いいわ~」

「落とすぞ」


 なんとか全員を階段の上にあげた俺はさっきに飛行してシエルの元へと急いだ。今のでかなりロスがあった、焦りは禁物だが焦らずにはいられない。溶けている廊下を見渡しながら、どこにいるかを探しだす。すると、正面から一人のエルフ兵が走って来た。


「おい、シエルはどうしたんだ!?」

「ひ、姫様なら王室にいます、魔王も一緒です……」

「王室ってここ進んだ先だろ?なんで真逆に走ってんだよ!」

「そ、そんなの……逃げてきたからに決まってるじゃないですか!」


 怒鳴り散らすように言ったエルフの顔は、恐怖と涙で変形していた。俺は彼の勢いに負けて息を飲んだ。


「姫様を守る、当然のことだ!今まで私もそうしてきた!でも……でも魔王は無理だ!しかも前回と違ってアイツは俺たちを殺す気でいる!あの時何もできなかったのに、何かできるわけがないだろ!そう思うと命が惜しいんだ、怖くてたまらないんだ!なんにでも飛び込んで何度でも転生できる勇者にはわからないだろうけどな!」


 捲し立てるように叫ぶエルフが落ち着いたところを見計らって、俺は廊下に降りた。ビクリと怯えて震えたエルフの横を通り過ぎ、裏拳で軽く背中を叩いた。


「いいじゃないか、怖くて。それが普通だ」

「え?」

「怖いものがあったら逃げる。それは人間もエルフも、勇者だって同じだ。立ち向かうのもいいし、逃げるのも悪いことじゃない。大切なのは、その後どうするかだと思う」

「その後を、どうするか……」

「今アンタはこうして、シエルを置いて魔王から逃げて、俺に居場所を伝えることしかできなかった。だったらこの後はどうする?アンタはどう動く?」


 エルフ兵の拳が力強く握りしめられたのを確認して、俺は王室へと向かった。

 王室までそう遠くはなく、すぐに辿り着いた。仰々しい大きな扉は完璧に溶けてなくなっていて、俺はそこから王室に入った。そこで見たのは床に倒れる兵士たちと、ドロドロに溶けた壁に埋もれて動けない国王様。そして、怯えて座り込むシエルと、その前に立つ一人の男。まさか、あいつが魔王?


「シエル!」

「あ――アツヒト様!」

「来たか、会いたかったぞ我が宿敵……」


 シエルの声で俺の存在に気づいた男は、ゆらりとこちらを向いて舌なめずりをして笑った。どこからどう見ても人間にしか見えないが、奴の出した舌はとても長く、舌先が生え際にまで届きそうだ。


「魔王……だな、お前?」

「その通り、溶解のトゥーカと申します。貴女が我が部下たちを葬った小さな勇者さんですかな?」

「悪いが俺じゃない、小さいのはもう一人いるんでね」

「そうですか……では、宝具を受け取ったもう片方ということで間違いなさそうですね」


 レオデーゴの野郎、もうすでに魔王へ連絡してやがったのか。いや、今こうして俺が宝具を起動させている時点で、情報が回ってなかったとしてもあの反応はおかしくはないか。


「わかってると思うが、お前の思い通りにはさせない。死んでもこの宝具は渡さないからな!」

「ええ、渡さなくて結構ですよ」

「…………は?」


 トゥーカの発言に、俺の脳は一瞬停止した。


「むしろ貴方に持ってもらった方が都合がいい。何かの間違えで彼女が宝具を起動したら堪ったものじゃないですからね」

「なっ……お前の目的は宝具じゃないのか!?」


 思わず叫んでしまった俺の問いに、トゥーカは愉快なものを見たような顔で笑い始めた。


「違いますよ。そもそもそんなこと一言も言っていません」


 確かに、トゥーカ本人からそう明言はされてないし、この結論もシエルたちと話し合った結果だけど、それ以外にシエルを攫う理由がわからない。クォーターエルフであることが関係しているのか?でも特別な何かがあるわけでもないし……


「で、では何故、私を攫ったのですか……?」


 俺と同じく自分を攫う理由を見失ったシエルは、怯えながらトゥーカに尋ねる。丁度その時に伊集院たちが合流し、現状に衝撃を受けていた。

 トゥーカは俺からシエルに顔を戻すと、ニコリと笑みを浮かべた。


「それはもちろん、貴女と結婚するためですよ」

「えっ……?」

「はぁ!?」

「なるほど、気持ちはわかる」

「激しく同意」

「お前らちょっと黙ってろ」

「初めて貴女のことを知ったのは一〇年前、私が人間に扮してこの国に来た時です。イリアコトンが見守る広場で楽しそうに曲芸を見て燥ぐ貴女を一目見た瞬間、私は恋に落ちました。どうにかして彼女と結ばれたいと本気で考えました、ですが私と貴女の間にはあまりにも壁が多すぎた……」


 舞台俳優さながらの動きで語るトゥーカ、その時のことを思い出しているのかどこか儚げで、敵ながらその悲哀な表情に心が動きかけた。


「だから私は思ったのです。そんな壁など溶かせばいい、いつものように、何もかもを溶かせば問題はないと」

「ッ!」


 俺は、それがさも当然のように語るトゥーカを睨み、一瞬でも心が揺らいだ自分に怒りを覚えた。こいつはこの大陸を侵略している魔王、そんな奴が良識ある恋愛なんてするわけがない!


「だから私は待ちました。彼女が結婚できる年齢になるのを、さらに美しくなるのを!そして時は満ち、一度目のお迎えに行きました。その時は私たちを祝福してもらうために、敢えて何もしませんでしたが……」


 一度言葉を区切った魔王は、ギョロリと不気味な軌道を描いて目玉をこっちに向けた。


「勇者が余計なことをしてくれた所為で、もう面倒になりました。今度こそ、私たちを阻むすべてを溶かし、幸せになるのです!」

「そんなことさせるかよ!」

「待て伊集院!」


 俺の制止を振り切って伊集院は剣を抜いて駆け出した、それに対してトゥーカは呆れたように笑い腕を横に薙いだ。すると、腕の軌道に沿って紫色の液体が放たれた。伊集院はそれを斬って進もうとしたところで、俺はあることに気づいて急いで風を飛ばした。

 風は伊集院を追い越し液体を押し返した、勢いが殺され床に付着した液体は、床を一瞬にして溶かし穴を開けた。それを見た伊集院の顔は一瞬にして青くなり急いで距離を取った。


「さあ、シエル姫。どうかこの私と結婚してください。そして共に幸せな日々を過ごしましょう」


 優しく微笑んだトゥーカはシエルの前で傅いた、この部分だけを切り取れば恋愛ドラマの一シーンに見えるが、中身が腐りきっている。今のアイツは隙だらけ、絶好のチャンスだ。だけど、あの紫色の液体がいつ飛んでくるかわからない。

 クソッ、こうなったら捨て身で行くしかないか!

 俺が意を決して足を踏み出そうとした瞬間、シエルはスッと立ち上がり、深々と頭を下げた。


「ごめんなさい!好きでいてくれたことは嬉しいですが、結婚できません」

「なっ………!」


 シエル!?いや、断るのは当然だけどなんでそんな真面目に返事してるの?


「何故ですか!?やはり私が魔王だからですか?人を殺し過ぎたからですか?」

「え、えーと……」

「はっきりと答えてください、シエル姫!」


 緊迫した光景に俺たちは息を飲み、シエルの言葉を待った。

 そして、しばらくして、口を開いた。


「タイプじゃないんです!」

「―――――――――ッ!!!?!?」


 城に衝撃が走った。

 普通なら魔王だからとか、大切な人を傷つけるような人とは結婚したくないとか、断る理由は山のようにあるのだが、まさかそれが一番に出てくるとは誰も予想していなかった。

 この展開には魔王も開いた口が塞がらず、伊集院と篠原は唖然。ミューに至っては大爆笑している。俺も片方の眉をピクリと動かしてなんとも言えない表情になっていた。


「―――ぬぅあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 シエルの言葉に発狂したトゥーカは噴水のように液体を放出する。俺は風のドームを作り液体から身を守り、他は小さな俺の体を盾に風の恩恵に肖っていた。


「タイプじゃない……タイプじゃない……?ふざけるな!そんな理由で人の恋心を踏みにじるなぁ!殺す、殺してあげますよシエル姫!そして、私と永遠の幸せを歩むのです!」

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