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1章第6話 遊べよ女装乙女。

 体育館に集う1年生。

 

 休日をまったりと過ごした後の月曜日。

 普段は月曜日を迎えると憂鬱な気分になっちゃうけど、いまのボクはやる気に満ち溢れている。自分がやりたいことを学べるのは、楽しみでしょうがない。

 頑張りーマンモス!


「うっ……んーもっと休んでたいなあ。大学が近いから、2限からだからギリギリまで寝てられるのはいいんだけどね……」


「あれ……? やる気があるのはわたくしだけだったようですね!」


 自分のやる気と杏樹さんのだらけ具合との差についツッコミをいれる。

 聖さんも眠たそうに欠伸を噛み殺す。


「昨日は夜更かしでもしたのですか?」


「夜更かし……あ、眠いわけではないのよ? ただ――」


「はい、わかってます」


 数日の付きあいでわかったことだけど、聖さんは弱味を見せることを極端に嫌がる。

 「孤高の天才とは呼ばせない……」の呟きに反応したときも、するりと避けられちゃったし。


「なら、いいの。……ピアノの練習をしていたのよ」


「あんなにお上手なのにですか……?」


「最近は練習が疎かになっていたから。土日で……20時間はしていたかしら」


「20時間ですか!?」


「ん……」


「すごい、ですね……」


 休日をまったりと過ごした自分が情けない。ピアノ初心者のボクこそが練習するべきだって痛切に思った。


「ハイハイ、みんないるかなー?」


 2限目のスタート時間きっかりに現れた女……の子……?

 その女の子はかなり小柄な体型。体育館にいる誰よりも目に見えて小さい。でも、その低い身長とは裏腹に大きく育った胸。杏樹さんほどではないにしても、ロリ体型なのに大きな胸――犯罪的だ。


「誰あの娘? うちの学年にいたっけ?」


「あんなロリ巨乳が私たちの学年にいたら、忘れるはずないですわ」


「うちらで巨乳といえば、倉賀野杏樹さんだもんね」


「「「うんうんうん」」」


 女の子たちの会話にボクも心の中で頷く。


 杏樹さんの胸は、この中の誰よりも圧倒的に大きい。触れたことがあるボクがいうんだから、絶対にそうだ。

 事故で触れただけだから、そこは誤解のないよう。

 

「彼女が先生なのではないかしら?」


「「「「「それはない」」」」」


「正解だよー! センセー、クールちゃんにS評価あげちゃうんーっ」


「クール、ちゃん……あ、ええ、ありがとう、ございます……?」


 ロリ巨乳少女を先生だと言い当てた、クールちゃんこと聖さん。

 すごい、これが女の直感ってやつなのかな。その直感で正体がバレるなんてことはないよね……?


 それにしても、子どもにしか見えない。あの小さい体もそうだけど、2房に結ったツインテールも子どもっぽさを加速させているっていうか――。 


「先生は、おいくつなのでしょう……」


 気になって、うっかり口が滑ってしまった。


「女性に年齢を聞くのはどうかと思うなー」


「女の子同士なんだから、いっちゃいなよ。ね? ね?」


 年齢が気になる杏樹さんは、先生に詰め寄る。

 先生はなぜか困った表情をしながらも、


「女の子、同士……? あーそうだねー哲学は苦手だけど、そういうことなんだよねーうん。自己紹介と一緒に発表しちゃおうかなーいい、おっぱいちゃん?」


「おっぱいちゃん? わ、わたしのこと!?」


「美少女くんもいいよねー?」


「あ、はい、構いません……けど」


 おっぱいちゃんこと杏樹さん、美少女くんことボク、のことみたいだ。美少女という呼称は、聖さんや杏樹さんが相応しいと思うんだけどな……。2人とも女性らしい魅力を持っているし、男のボクがそれに敵うはずないんだから。


 先生は、声が届く範囲に学生を集める。


「あらためまして、センセーは、運動遊びを担当する藤波やえ子っていいまーす。好きなように呼んでねー」


「「「「「はーいっ!」」」」」


「で、みんなが気になってるセンセーの年齢だけど……」


「「「「「だけど!?」」」」」


「なんと36歳ですっ」


「嘘……だよね?」


「本人がおっしゃっているのですから、事実かと」


「直感で先生だとは言ったけれど、見た目は高学年の小学生にしか見えないわ……」


 みんな口々に言う。

 見た目と年齢が一致してないし、驚くしかないよね。


「運動遊びは、名前通りとにかくあっそぶよー。だから動きやすい服装が好ましいけど、1回目だからしょうがないね! 来週は動きやすい服装で参加してねー。更衣室は、体育館の2階にあるから」


 藤波先生は一通り説明を済ませると、学生を起立させて広がるように指示をする。


「せっかく朝から来てもらってこのまま終わるのはねー。……遊ぼっか?」


「やえ子先生、楽しそうな人だよね」


「子どもらしい性格といいますか……」


「子どものまま大人になった感じよね」


「じゃあ、音が鳴った回数と同じ人数でグループを組んでもらおうかなー。あぶれた人はー、罰ゲームだから!」


「罰ゲームですか!? はぁ、あ……嫌な予感が……」


 藤波先生はホイッスルを口に咥えて、大きく息を吸って吹く。

 ピッ、ピッ、ピッ、と短い音。


「3回鳴ったから……わたし、恵唯ちゃん、聖ちゃんで3人だね! て、あれー!?」


「めいめい、こっちこっちなの!」


「恵唯ちんをいれたら丁度だから」


「ありがとうございます。これでグループ完成ですね」


「ふあぁ〜めいめいから甘い匂いがするのぉ」


「近いです! あうぅ、ひっつかないでください……!」


 杏樹さんを余所に、ボクは双子のグループに入れてもらった。聖さんも既にほかのグループの輪の中にいる。

 総勢34人、3人で11グループができるため、杏樹さんだけが取り残される形になった。


 藤波先生はそれを見て、にこにこしながら、


「罰ゲームは、おっぱいちゃんだねーぷくく」


「みんな酷いよ……信じてたのに……」


「そこはゲームだから。うんうん、罰ゲーム受けたくないよねー」


「ね、ねえ……やえ子先生、罰ゲームって……?」


「センセーの質問に答えてもらおっかなー。そだねーおっぱいちゃんの胸囲はいくつ?」


「えっ……と……?」


 杏樹さんは困惑する。

 困るよね、だってこれセクハラだもんね? セクハラだよね!?


「85cm……。カップまでいった方がいい、かな?」


「知りたい知りたいにゅあぁーちらちら」


「Dカップだけど……」


 胸を抱きかかえて、隠すように背中を向けた。嫉妬の視線が杏樹さんに集中しているのが、ひしひしと伝わる。


「みなさんの気持ちはわかります。あんなにも大きいと羨ましく思ってしまいますよね」


「大きくても、邪魔になるだけよ。肩も凝るでしょうし、動くのも大変でしょう?」


「鴫野さん……」


「な、何よ!?」


「りんりん、強がっちゃって!」


「羨ましいですわ。どこの国で整形したら、あのような立派なお胸が」


「センセーは、牛乳を飲んで成長させたからねー。美少女くん、いいでしょー?」


「は、はい、いいですね?」


 胸について談笑する女の子たち。

 男がいない、乙女の花園でだからこそ行われる女の子の少しえっちなお話。共学では、胸の話題でここまで盛り上がったりはしないと思う。


「胸胸胸おっぱいおっぱい、うるさいわ。無駄な脂肪を引きちぎれば、静かになってくれるかしら」


「それは駄目ですよ、聖さん!」


「止めないであげて、恵唯ちん。そこに胸があったら、飛び込みたくなるのは仕方のないことだから」


「合法的に胸を揉めるんだよ?」


「めいめいも参加しなきゃなの! ね?」


「セクハラになるので辞退させていただきます」


「きゃっ……は、あぁ、揉んじゃだめえぇぇぇぇぇぇ!!」


 1年生全員が杏樹さんの胸に襲いかかる。

 女の子の妬み嫉みは、恐ろしい――ボク学びました。

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