3章第2話 夢を見る女装乙女。
幼稚園教諭になりたいと思った理由――最初は恋心だった。
それは不順な動機かもしれない。だけど、恋心が夢に変わるのは、いま思えばそう不思議なことじゃなくて、必然のできごとだったのかもしれない。
ボクの両親は共働きで、幼稚園に迎えにくるのがいつも遅かった。
だから。みんなが帰って独りになると、自然と目から涙がこぼれていた。
――寂しい、と。
――帰りたい、と。
でも、そんなボクを小柄な先生は、絵本を読み聞かせしてくれたり、マジックを披露して、泣き顔を笑顔にしてくれた。
――そう、ボクは、幼児とひたむきに接する優しい先生に恋をしていたんだ。
好きな人ができたんだから、その人の力になりたいって考えるようになった。そのために小さい体だけど、先生のお手伝いをした。
運ぶダンボールは重かった。園庭と倉庫を往復して三輪車を片付けるのはすごく大変だった。
だけど、先生はその後も書類を記入して、明日の準備を続けてる。
それなのに、ボクは疲れて座り込んでしまった。先生――女の子よりも先に音を上げてしまった。それが年齢の差はあっても、男としてとても悔しかった。すごく悔しかったんだ!
ボクは先生のお手伝いをしてるうちに、先生である彼女たちは、毎日ボクたちのお世話をしてくれて、ボクたちが楽しく生活しやすい環境を作っていたんだって実感した。
そんな姿を間近で見ていたら、恋心だけじゃあ終われない。
恋心が夢へと変わったんだ。
こんな幸せな仕事を――こんな肉体労働を女性だけに押しつけるわけにはいかない。
幼稚園教諭は辛い仕事じゃなくて、幼児に夢を与える仕事じゃなくちゃいけないんだから。
だから、夢をくれた先生――ささやかな初恋をくれた先生に宣言する。
「ボクが先生みたいな先生になって、先生とちっちゃい子を幸せにする!」
「センセー、哲学は苦手だけどー。その気持ちは嬉しいよー!」
先生は真剣に。でも、口癖を欠かさずに笑ってくれた。
小さなボクでも、好きな女の子を笑顔にすることができた。その事実に勇気を得ることができた。
これなら幼稚園の先生になれる――そう信じて疑わなかたった。
でも、夢がほかの学生の邪魔になるんだったら、諦めなきゃね。ほかの人に迷惑をかけるのは先生も望んでいないはずだから。
だから――ボクは、幼稚園教諭の夢を諦めることにした。
いま見てる夢が穢れずに済むように。叶わないとわかっているからこそ、美しい夢のまま思い出として昇華されるように。




