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2章第10話 好きを伝えよ夢見る乙女。(倉賀野 杏樹視点)

 みんなの前で発表、それも1人でってのは、すごく緊張する。

 この発表次第で、みんなから嫌われちゃう可能性があるわけで、今後のキャンパスライフがかかっているって思うと、なおさら足が竦んで唇が乾いた。


 あー緊張しすぎて、トイレに行きたくなってきた! でも、我慢しなくちゃ、うぅ……。


 わたしらしくない。それはわかっているんだ。にこにこ笑顔で愛想を振りまくのがわたしだって。それもわかってる。

 でも、わたしがわたしらしくいられる場所がなくなっちゃうかもしれない。それがすごく怖い。

 怖いけど、好きなことについて話せない。語れない。隠さなくちゃいけない。それがほんとにわたしらしいかって考えてみると、それは絶対にありえない!


 にこにこ笑顔で愛想を振りまくわたしに、2次元が好きという要素を含んで、やっとわたしなんだ。だったら、本来のわたしを曝け出してやる。


 この作戦に協力してくれて、いまはお弁当を配膳してくれている恵唯ちゃんに視線が吸い寄せられる。


 ありがとう、わたしの力になってくれて。

 いまの可愛い恵唯ちゃんも好きだけど、いつか本来のきみを見せて欲しい。ほんとの友達になりたい。どんな恵唯ちゃんとでもズッ友になれる気がするから。


 本来の自分を見せることができない――似た状況にある自分と恵唯ちゃんを重ねて考えてしまった。


「あれ……」


 恵唯ちゃんのことを考えているうちに自然と緊張が解けてきた。それどころか勇気が湧き出てくる。もうなにも怖くないと思えてしまうくらいに。


「あはは、恵唯ちゃんってすごいなぁ……。よしっ、恵唯ちゃんパワーで頑張るぞーっ!」


 お弁当がみんなに行き渡ったことを確認して、教卓に上がった。


 教卓から教室内を見渡す。

 お弁当を広げるみんなの姿がよく見える。講義中に睡眠したり、スマホで遊んでいる学生は気づかれて、密かに減点されているんじゃないのかな、なんて思う。今後は寝ないように気をつけたい。


 っと、その前に――。


「少しみんなの時間をもらってもいいかな?」


「あ?」


 わたしの一言にみんなが一斉に振り返る。

 今日もお洒落なメイクをしている雲母ちゃんもお弁当を貪り食べながら、わたしに視線をくれた。


「まあお弁当作ってもらったし、それくらいならいいんじゃない? でも、ちょーお腹減ってるから手短に済ませてよ」


 運動が大の得意な沙彩ちゃんが周囲に呼びかけると、快く耳を傾けてくれた。


 みんなの視線を一身に受けて――その中に感じる恵唯ちゃんからの声援を力に、わたしは教室内に響き渡るように口を大きく開いた。


「私は、アニメが子どもに悪影響を与えることを始めて知りました」


 言い慣れない敬語。でも、聞いてもらうんだから、丁寧な方がいい。そっちの方が発表ぽいからしね。


「アニメが原因で子どもが攻撃的になる。親が育児を怠り、アニメを見せる。アニメが好きな大人の中に2次元と現実の境が曖昧になって、子どもに犯行が及ぶなど様々な問題がありました」


「見て梢、ビュティキュアだよ。あの絵、杏樹ちんが描いたのかな」


「あんあんの絵、すごく上手いのっ!」


 落ち着いた雰囲気のある楓さんと、その双子の妹である梢さんは、画用紙に描いたイラストを褒めてくれた。


「繊細なタッチに丁寧な色づけ――素晴らしい。Ms.倉賀野の絵は、芸術作品と遜色ないレベルのものですわ」


 クラスNo. 1のお嬢様――舞ちゃんも感嘆な声をもらしてくれる。


 イラストを混じえた発表は大好評みたいだ。このアイデアを提案してくれた恵唯ちゃんには、感謝しなくちゃ。


「しかし、アニメは子どものごっこ遊びを楽しくしてくれます。アニメは知らないことをたくさん教えてくれます。――そして、なにより夢を与えてくれます。わたしが幼稚園教諭になりたいと思えたのは、アニメの影響ですから」


「うんうん」


 いつも大人しい花代ちゃんが、力強く頷いてくれている。

 もしかしてアニメが好きなのかも。そうだとしたら、これが終わったら、語り合いたいなぁ。


 わたしにこの問いを投げかけてくれた雲母ちゃんと一緒にいる女の子も、「アニメってすごいんすね、姉御! あちゃーうち勘違いしてたっすわ」と相槌を打ってくれていた。


「アニメは悪い影響を与えているかもしれません。でも、少なからず良いこともあることをみんなには知って欲しいです」


 理解の輪が広がる。

 偏見が薄れていく。

 わたしの好きものに興味を持ってくれている。


 楽しいな、好きなものを共有できるって。嬉しいな、好きなものを話せる友達がいるって。


「話を聞いてくれてありがとう! これでおしまいにします」


 言葉だけじゃなくて、最敬礼で感謝の意を示す。


 少しの時間と約束したから、予定よりも早く切り上げている。

 もちろん、台本に書いたことを全て発表できたわけじゃないけど、これでもわたしの気持ちは充分に伝わったと思う。

 だから、残りの休み時間は、わたしと恵唯ちゃんのお手製弁当を食べてもらう時間にしよう。


「お弁当美味しい? 聖ちゃんのお口に合うかな?」


 みんなの和に飛び込んでいく。


 ――すると、「いままで誤解してた。ごめん」、「あれ悪意があって言ったわけじゃないんっすけど、申し訳ないっす」などの言葉をかけられた。


 それどころか、「あんあん、あんあん、梢もビュティキュア好きなのん」、「倉賀野さん的に今期はなにがおすすめ?」って質問されて、アニメを語り合えそうな友達も出てきた。


 好きを貫くことは、とても難しい。

 でも、だからこそ好きを貫くことができたら、自由に好きを伝えられるようになるんだ。


 例えば、恵唯ちゃんが幼稚園教諭になりたいのに男の子だからっていう理由から女装して清白女子大学に通っているんだったら。いつか性別を偽らずに堂々と幼稚園教諭になれる日がきたらいいな――って、そう願わずにはいられない。

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