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2章第5話 ミルクを作る夢見る乙女たち。

 心理学が終わると、足早に次の教室――小児栄養実習室に移動する。


 4限は小児栄養。楽しい楽しい調理実習の時間だ。

 まあ、名目は調理実習だけど、ただ育児用ミルクを作るだけなんだよね……。


「よしよーしっ、やるよ!」


「杏樹さん、その前にエプロンと三角巾をしてください」


「へへ、忘れてた」


「やる気頑張りマンモスなのはよいのですけれど、しっかりしてください」


「可愛い。けど、つまらないわ、恵唯」


「すっこく可愛かったね、恵唯ちゃん。つまらなかったけど」


「ギャグのつもりで言ったわけではありませんから!」


 今回はボク、杏樹さん、聖さん、それに加えて、可愛らしい容姿に反してあまり目立たない鈴木(すずき)花代(はなよ)さんと、心身ともに幼く見える神原(かみはら)(こずえ)さんの5人1グループで行うことになった。


「めいめい! 頑張ろうなのっ」


「ええ。でも、子ども遊びのときのように匂いを嗅ぐのはやめてくださいね。恥ずかしいですから」


「ふぁ〜いい匂い。あまあまなの」


「口にした側から!?」


 神原梢さんは甘えたがりっていうか、なぜかボクによく懐いている気がする。


「妹をよろしく頼むね、恵唯ちん」


 神原梢さんの姉――神原(かみはら)(かえで)さんに彼女の妹を任された。

 姉の神原楓さんは柔和で落ち着いた性格している。姉と妹でこんなにも違うなんて……。

 神原家はお金持ちで、その長女である神原楓さんは社交場に参加する機会が多くて大変と聞くし、どこに出しても恥ずかしくないように教育されているっていう可能性はある。


「……」


「るんるる〜んるる〜ん〜♪」


「……」


 ボクと杏樹さん以外とは用件がない限り会話をしない聖さん。鼻歌を口ずさむくらい変なテンションの杏樹さん。それに挟まれて、どうしていいのかわからずオドオドする鈴木花代さん。あまりいい空気とは言い難い3人。


 それに鈴木花代さんは、杏樹から少し距離を置いているみたいに感じる。彼女もアニメオタクをよく思っていないのかもしれない。それは周囲も同様で、遠巻きからボクたちのグループを観察している。


 っていうか、噂が広まるのはやっ! 女の子は口を開けば噂をする生き物だって聞いてはいたけど……ここまでなんて。


 ボクの匂いを嗅ぎ続けている神原梢さんは、アニメオタクの件をどう考えているんだろう。気になって聞いてみる。


「好きなアニメってあったりします?」


「あるのんあるのん」


「本当ですか? 作品も教えていただけますか?」


「恵唯ちんなら、教えてあげる。梢はねぇ〜ビュティキュアとか、ビュティパラとか好きなのっ」


「あぁ、なるほど……」


 イメージ通り、子どもが好きそうなアニメを好んで見ているみたいだ。


「ビュティパラは申し訳ございません。守備範囲外ですけれど、ビュティキュアは見てます。子どもとの会話で困った際に、話題に使えますから」


「じゃあ今度お話ししよ、めいめい!」


「いいですね。そのときには、杏樹さんを誘ってもよろしいでしょうか? わたくしよりも詳しいと思いますよ」


「えへー楽しみなのっ!」


 神原梢さんは、無邪気な笑顔を振りまく。子どもみたいで可愛いくて、守ってあげたくなる。父性本能をくすぐってくる娘だなあ。


「そろそろ始めましょう? 時間が惜しいわ」


 聖さんのかけ声で、三角巾とエプロンを装着する。


 ――いざ調理開始である。


「なにからするんだっけ? プリント忘れちゃってわからないや……」


「わたくしのプリントでよければ、一緒に見ますか?」


「ありがとう、佐々宮さん!」


 2種類の育児用ミルクを作ることが課題になっているから、5人1グループの中でも、さらに杏樹さんと聖さん、鈴木花代さんと私(神原梢さんはそれぞれお手伝い)に分かれている。


 プリントを鈴木花代さんに預けて、その間に器具の消毒がされていることを確認する。


 そして、ボクの指示の元、鈴木花代さんはプリントを片手に持ちながら、作業を進めていく。

 スプーンを用いて粉ミルクを哺乳瓶に入れる。そこへ湯冷ましも入れて、粉ミルクを溶かしていく。その後しっかりとかき混ぜて、赤ちゃんが飲めるくらいに冷めたことを肌で見極めた。


「……んーっ。んん、これで完成ですね」


「佐々宮さんって何でもできるよね」


「そうでしょうか。できるだけで得意な人には敵いませんよ。杏樹さんなんて炊事、洗濯、掃除――幅広くこなしますから」


「ほえ……ぃ、すごい。だから、手際がいいんだね」


 鈴木花代さんは関心したみたいに、別の作業をしている杏樹さんを見つめる。

 少し距離を置いているじゃないかって思っていたけど、気のせい? 逆に杏樹さんに興味を持っているような……。


「杏樹さんが気になるのですか?」


「うん、まあ、ちょっと……ね」


「ふむ……」


 言葉に詰まる鈴木花代さん。

 アニメオタクの件だろうか。彼女は杏樹さんにじゃなくて、アニメについて興味を持っている? いいや、同士を見つけた輝いた眼差しをしている。


「もしかしてアニメが好きだったりします?」


「あ、え、バレ、た……? なんで!?」


「なんでと聞かれましても……知識は浅いですが、わたくしもアニメを見ています、と伝えるやいなや、杏樹さんもいまの鈴木さんのように瞳をキラキラさせていましたから」


「佐々宮さんも!? 騙してないよね!? なにが好き!?」


「近い、近いですっ!」


「はぐらかすの禁止!」


 鈴木花代さんは、上目遣いでボクを見据える。

 手に収まりそうな手頃なサイズの胸がボクの胸板を撫でていく。唇も目と鼻の先にあるほどの距離で、彼女の自然なピンク色の唇に思わず吸い込まれそうになる。


 離れなきゃ――。


「ねぇ、恵唯。遊んでいる暇があるのなら、彼女を止めて。私はもう疲れたわ……」


「あ、ごめんなさい、聖さん。いますぐ、やります……?」


「地獄絵図だね……! 頑張って、佐々宮さんっ」


「他人事ですか!? 鈴木さんも手伝ってくださいよお……」


 鈴木花代さんの普乳から脱出し、聖さんの助けに向かうと――。


 杏樹さんが神原梢さんを横向きに抱きかかえて、ミルクを飲ませてあげていた。哺乳瓶は神原梢さんの飲みやすい位置にあり、授乳のお手本のような構図だ。


「梢ちゃん、ママの母乳だよっ。いーっぱい飲んでね」


「うん、杏樹ママ! 飲むの飲むの」


「うーん、今日は母乳の出が悪いのかな? ごめんね、梢ちゃん」


 哺乳瓶の出が悪いことをそう例えた杏樹さん。豊満な胸とムチムチボディに、神原楓さん(赤ちゃん)にミルクを与える姿が、子持ちの団地妻のような色気を醸し出している。


 いまの杏樹さんは、自分の考えがまとまらずに通常通りの言動ができてないでいる。元気が空回りしてるような気がする。


 ちょっとえっちな妄想しておいて、なにを言ってるんだと思うかもしれませんけど、ボクはそう思いました。ごめんなさい。

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