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2章第2話 秋葉原を探索する女装乙女。

 秋葉原に降り立ったボクと杏樹さん。


 すれ違う人は、リュックサックを背負った元気な少年だったり、眼鏡をかけた落ち着いた女性だったりと様々。印象としては、ゴールデンウィークということもあって、親子連れが多い気がする。

 秋葉原はオタクの聖地というイメージが強いけど、老若男女、国籍問わず賑わっていた。


 まずは杏樹さんの目的であるミラクル幼稚園の限定グッズを買いにアニメグッズを取り扱う専門店にやってきた。

 杏樹さんの、ミラクル幼稚園は今期の覇権だよっていう発言はあながち間違っていなくて、限定グッズは残り僅かになっていた


「キーホルダーはまだ残っていましたね。間にあってよかったです」


「うんっ。あーちゃんも、ひーちゃんも、めーちゃんもあるし、大満足!」


「下敷きやクリアファイルは、よろしいのですか?」


 キーホルダーをカゴに入れて、レジへ向かう杏樹さんに待ったをかける。


「どうせ学校とかで使えないからね。なら、はじめから買わない方がいいかなって。お金が勿体ないし」


「学校で使えない理由というのは……」


「萌え絵? ――広くいえば、2次元に対する偏見だよね。こういう趣味っていいイメージ持たれないし、お嬢さま大学の清白だとなおさらね……」


「だから、親しいわたくしにもその趣味を隠していらしたのですね。友達に隠しごとですか」


「根に持ってる?」


「ええ、友達の好きな物を受け入れることができない薄情者だと思われていたことに」


「あはは、打ち明ける機会がなかったからさ」


「今日の朝もそうですけれど。健康診断のとき、女子トイレにできた大行列を見てコミケがどうのと口にしていたというのによく言いますよ」


「聞こえてたんだね。はぁ……コミケをコミックって言い訳したわたし、バカみたいじゃん」


「なんて、ふふっ……全く気にしていませんけどね。乙女にはだれにも言えない秘密があるでしょうし」


 ボクにだって性別っていう秘密があるわけだし、杏樹さんの秘密なんて可愛いものだよね。


 杏樹さんは安心したように微笑む。


「もう……もう少し早くネタばらししてくれたら、こんなに深刻にならなくて済んだのに」


「どんな杏樹さんでも受け入れる、ということを強調したくて。わたくしたち友達でしょう?」


「伝わったよ。ありがとう、恵唯ちゃん」


「どういたしまして」


 限定グッズを購入して、お店をあとにする。


 とくに目的もなく、秋葉原の狭い路地を2人で巡っていく。狭い路地は人通りが少なくて、自分たちのペースで歩くことができた。


「秋葉原って、アニメやゲームの専門店、家電を取り扱うお店はもちろんですけれど、飲食店も多いですね」


「秋葉原の飲食店は、味にも拘ってるお店が多くて……とくにラーメンの――」


「続けてください」


「ニヤニヤされながらだと話しにくいよ! なにか面白いことでもあった?」


「杏樹さんの好きなものを知ることができて嬉しくて……でも、杏樹さんがお嫌でしたら、いますぐにでも忘れます。どうにかして忘れます。どうもできなければ、土下座します!」


「そんなこと1ミリだって思ってないくせに」


「ふふふ、わかってしまいます? もしかして妖怪の覚では?」


「手で口を隠すくらい大袈裟に笑われたらね。わ、わたしは今日のこと忘れないからねっ。いつか仕返ししてあげるもん」


「可愛らしい仕返しを期待してますね」


「可愛らしいって……それ仕返しじゃなくて、ご褒美になるんじゃないかな!? 」


「それは可愛らしい仕返しの内容次第ですね」


「はいあーんで恥ずかしがってくれたから……次は口移しで食べさせてあげるのはどう? あーこれもご褒美になっちゃうー?」


「それはご褒美です。ご褒美ですから、どうかお許しを」


 今回は会話の主導権を握っていると思っていたけど、やっぱり口喧嘩で女の子に勝てなかったよ……。

 でも、杏樹さんも、ボクも笑っている。それだけで今日、彼女とお出かけできてよかったと思えた。


「いかがですかぁー、ご主人様ぁ❤️」


 チラシを持ったメイドに客引きされる。


「え?」


 そのメイドは外見だけを見たら、上背がある綺麗な女性だった。でも、声が低く、顎に髭の剃り残しがある。

 彼女――彼はたぶん男だ。

 男性がメイド服を着用して、ご主人様をもてなす――いわゆる女装メイド喫茶と呼ばれるお店の店員さんなんだろうか。


「べっぴんさんだね。女装メイドさんかな?」


「ええ。まるで女性のようです」


 女装メイドは、ぱっと見男性だとわからないレベルで、クオリティが高かった。それでも、ややハスキーな声が男性だとを主張している。

 あとちゃんと髭を剃りなさい!


 ボクは、声変わりが訪れなかったんじゃないかと疑問視するくらい高いままで、この声のおかげで女装ができているんだと思う。

 ううん、それだけじゃない。

 中性的な容姿も、全く生えてくる様子がない髭も、男にしては華奢な体格も、女装するまではコンプレックスに感じていた。けど、それが女装したボクの武器だってことは間違いない。


 父さん、母さん、ボクを可愛い男に産んでくれてありがとう。2人のおかげで女装して、幼稚園教諭を目指すことができているよ。


「まあ、恵唯ちゃんには負けると思うけどね。恵唯ちゃんが一番可愛いよ」


「え、いや……女装した男性と女性を比べるのは、さすがにちょっと。女装した男性には、女装した男性の魅力がありますし、どちらが上か下かというのは決められませんよ」


「そうだね。恵唯ちゃんには、恵唯ちゃんの魅力があるもんね」


 杏樹さんが、ボクを無駄に後押ししてくれる。

 女性の魅力を褒められるのは、ボクの女装が女性に近いことを指している。それが性別を偽り大学に通うボクには、自信になった。


「ありがとうございま――す?」


「どういたしまして。じゃあ、お昼ご飯を食べに行こっ!」


「はいっ!」


 女の子とのお出かけは、はじめてで緊張したけど、この後も粗相のないように立ち回れた。それにボクも杏樹さんも終始笑顔だったし、楽しいデートになったと思う。


 ってそうだよ、異性とお出かけって、それもうデートじゃん!

 それに気づけたのは、家に帰ってからのことで、ベッドの中ですごく悶々とした。

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