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1章第12話 子どもと交流せよ夢見る乙女たち。

 すずしろキッズゲームたーいーかーいぃー(通称・ゲーム大会)の当日。

 保育実習室が大勢の親子連れと1年生スタッフで満杯。ゲームの待機列が廊下まで伸びているほどだった。


 とくに人気のゲームは、射的だ。

 射的は、割り箸鉄砲で、的に見立てたお菓子を倒すというルールになっている。もちろん、倒したお菓子は景品としてプレゼントされるから、たぶんそれが理由で人気になっているみたいだ。


「射的の最後尾はこちらです」


 ボクは待機列の末尾でプラカードを持ち、誘導する役目を担っている。


「かわいいおねえしゃん。おしろに、ならんでいいぃ?」


「うん、いいよ。ここが一番後ろだからね」


 身体を屈めて、少女と目線を合わせる。敬語では堅いと考え、柔らかい口調で対応する。

 二重で瞳がぱっちりとした娘で、”後ろ”を”おしろ”と口にしていて、その滑舌の悪さが可愛らしい。けど、1人で列に並ぶ少女から変な感じがする。

 1人で、列に、並ぶ……。


「あ、そうだ」


「おねえしゃん……?」


 ほかの子どもは親と一緒に行動しているのに、二重の少女は1人で行動しているんだ。


「ねえ、お母さんはどうしたの?」


「おかあしゃんは、まいごだよ」


 これはお母さんが迷子なのではなく、少女が迷子になったパターンだ。お母さんは、いまも少女を捜し回っているはず。


「お母さんのお名前、いえるかな?」


「おかあしゃん!」


「だよね、まだわからないよね。自分の名前はわかる?」


「わかるお。あぃ」


「あいちゃん、だね。ありがとう、あいちゃん」


 首元につけたインカムで聖さんに連絡する。


「射的最後尾に配置されている佐々宮恵唯です。こちらに迷子になったおん――お母さんを捜している女の子がいます。至急、お母さんを捜してあげてください」


 了解と短い返事がきたので、プラカードを応援に駆けつけたクラスメイトに託し、あいちゃんの対応に集中する。


 あいちゃんは、日曜日の朝に放映している仮面ファイターやハイパー戦隊、とくにビュティキュアの話題を投げかけた際は食いつきがよかった。

 子どもが興味をもってくれる話題を知ってて損はないから、アンテナは広く張っておくべきだって改めて実感する。


「あい……! よかった」


 聖さんがあいちゃんのお母さんを連れてきてくれた。

 あいちゃんのお母さんは汗が滝のよう垂れ、呼吸は荒くなっている。キャンパス内を探し回ったに違いない。

 ふぅ……見つかって一安心。


「おかあしゃん。さがしたんだからねっ!」


 あいちゃんはぷんぷん顔でお母さんに怒る。しかし、お母さんは慈愛に満ちた表情を聞き流していた。

 ホッとしているから、怒るに怒れないんだろうな。いやーよかったよかった。


「ありがとうございました。ありがとうございました」


 お礼を繰り返し、何度も頭を下げるお母さん。ボクは頭を上げるように促したけど、しばらく終わりそうになかった。

 そんなお母さんを他所にあいちゃんは、


「かわいいおねえしゃん。たのしかったよ。ありがとぅ」


 と笑顔で言ってくれた。


「射的も楽しんでいってね」


「うんっ。あ……」


「どうしたの?」


 次は聖さんとばかりに大きな瞳で聖さんを見つめる。


「きれいなおねえしゃん。おかあしゃんをみつけてくれて、ありがとぅ」


「どういた……う、ん」


 表情が強張る聖さん。上手く言葉がでないみたいで、最終的には濁してしまった。

 昨日までは、実行委員長の役目にそつなくこなしていた聖さんがどうして……ううん、インカムで会話したときまで、いつも通りの聖さんだった。

 もしかして子どもと会話をしたから……?



 親子、それと聖さんと別れ、待機列の最後尾に戻る。

 そこで待っていたのは、退屈そうに腕を組む藤波先生だった。


「あれ、クラスメイトに最後尾のお仕事をお願いしたはずなのですが……。なぜ藤波先生がその役を?」


「漏れる漏れるーっていうから、代わりにセンセーがやってあげてるのー。偉いでしょ?」


「ありがとうございます。子どもたちの前でお漏らしなんて、一大事ですからね。藤波先生が偶然でも、いらっしゃってくれて助かりました」


「どういたしましてー。さーはいはい、代わって代わって」


「あ、はい」


 プラカードを渡される。

 ってプラカードを手に持ってないと思ったら、床に放置してたんかーい。ただ最後尾に仁王立ちしてただけで、なにもしてないよねこのロリ巨乳先生。


「そういえばなんだけどー今日のクールちゃん変だよね?」


「クールちゃん……あ、聖さんのことですか」


「そーそ。保護者さんとは上手に対応してくれるんだけど、子どもに話しかけるとなぜか表情が引きつって逃げ腰になっちゃってるんだよねー」


「子どもの前だから、あのような態度に……」


 学長の言葉が聖さんに悪影響を与えている。

 子どもと接することが怖くなるほどに。他者を理解できないという恐怖が、彼女の幼稚園教諭を目指す想いを妨げているんだと思う。


「仕事にならないから、裏に回したの。でも、ずっとこのままってわけにもいかないしーどうにかしてくれないー?」


「無茶振りですね。藤波先生は手助けをしてくださらないのですか?」


「センセーがどうこうってよりも、学生同士が気づく方がいいじゃーん? ヒントはあげたんだし、頑張ってみてよー」


「じゃあ、もう少しの間だけ最後尾をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「あ、あーやっぱりそうなっちゃう? なっちゃうかー」


「それはもちろん。しっかりとプラカードを持ってよろしくお願いいたしますね」


「はいほい~。……ふふ、美少女くんこそがんばっ」


 藤波先生は、プラカードの手持ち棒の部分を胸で挟み込み、ボクを見送ってくれた。

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