1章第8.5話 討論せよ夢見る乙女。(鴫野 聖視点)
「しっかりとした理解とは何だ。歳がそんなに離れていない者同士でも言葉が通じず、すれ違うというのに。幼児とはそれができると? クク、夢見る乙女の理想でしかない。笑わせるな」
学長の指摘は、私の心を射抜いた。
否定も、反論もできるはずがない。事実、私は自分より脳や力が劣っている者を見下し、冷淡な態度をとってきた。それは子どもも例外ではない。その態度は清白女子大学の入学式まで続いたのだから。
でも、どんなに塩対応をしても接してくれた2人のせいで、私の冷たい仮面は脆く崩れたのだけれど……それほど私は友達を欲していたのだと思う。
しかし、人と関わることで、疑問が生まれた。
――どこまで自己を晒していいのか。
――どのような言葉が相手を傷つけてしまうのか。
このような人間が他者を理解、その上意思疎通の難しい子どもを理解しようなど無理な話である。
「……」
考えにふけていき、自分が実行委員長に任命されたことに気づかない。
もともと子どもの気持ちを理解するというのは、幼稚園の園長を務める母の受け売りだ。清白女子大学に入学したのも、母の勧めから。最終的に清白女子大学に決めたのは自分だけれど、そこには自分の意思は存在していなかった。
やる気が一欠片もない人間が子どもについて語るなど片腹痛い。否定されて当然である。
そして、母であれば、学長を負かすことができたのか。私に学長に言い勝つだけの知識と経験があれば、と考えれば考えるだけ悔しくなってくる。
はぁ……もうどうでもいい。卒業できればどうだっていい。幼稚園教諭の免許なんて犬にくれてやるわ。