1 邂逅は日常の中で(1)
狩人たちの依頼を管理、斡旋を生業とする『ギルド』では今朝から『スコア』が公表され、早朝にもかかわらず祭りのような賑わいを見せていた。
雑貨屋ではヒューマンの店主が客寄せのために声を張り、露店では怪しげな格好をした小人が怪しげな装備を売りつけている。広場の鍜治屋ではドワーフの職人が打つ鉄の音が木霊し、酒場ではエルフの弟子が今日の分の仕込みを進めている。
このエルシアはギルドを中心に栄えた街なのだ。
そしてスコアの公表は街が主催で行う大きな祭典の一つに数えられる。
皆一様に浮かれる中、ただ一人で街を歩いていたアリス・ムラサメはスコアを確認するやいなや、その手で依頼書を握り潰してしまった。
「ひっ……⁉︎」
殺気とも呼べる黒いオーラにギルドの職員が情けない悲鳴をあげ、騒いでいた他の狩人たちもみな一斉に息をのんだ。
少女らしからぬ殺気に先ほどまでの賑やかな空気は一転し、凍りついたかのような静寂が訪れる。
中には好奇の視線を向ける強者もちらほらといる、がアリスは気にも留めない。
『【竜殺し】⁈』
不意に呟かれたその一言に再び場は一転する。
『あれが⁉︎』『めっちゃ美人じゃん』『ホントに千匹もドラゴンを斬ったのか?』
先ほどとは別種のざわめきが辺りを包み込んだ。
その令嬢のような顔立ちや、凛とした朱の双眸。
腰まで伸びる藍色の髪は艶に溢れ、雪のように白い肌。
すらりとした体を包む鎧は胸部の膨らみの主張を抑えきれていない。ほっそりとしたウエストに吊られた流麗な白銀の太刀。
甲冑と太刀がなければどこかの国のお姫様にさえ見える。その華麗な容姿に加え、単身でドラゴンを討伐してのける剣技は間違いなくトップクラス。
ついた二つ名は【竜殺し】
畏怖、尊敬、嫉妬、羨望。それらがごちゃ混ぜになった視線すらアリスは意に介さない。
ただじっとスコアを睨み続けていた。
「ありゃ?スコアの公表って今日だったっけ?」
と間の抜けた声が突如ギルドに木霊する。
一斉に向けられた視線に少年は面食らったような面持ちでギルドの掲示板の前まで歩いていく。歴戦の狩人すら戦慄したアリスの殺気を物ともせずに。
「おー、今回もスコアは上々か。なら今日は祝杯と行きますか。アリスも来るか?」
ピクリ、とアリスの肩が震える。少年はそれに気づいた様子もなく、酒場の方へ歩いて行く。
「ん、どうした?来ないのか」
少年が振り返った瞬間、アリスの姿が掻き消えた。
瞬間、凄まじい金属音と火花が飛び散る。
「おいおい、ここ街中だぞ」
不意の攻撃に少年は何事もなく刃を受け止める。
「黙れ。勝負しろ【灰】ッ‼︎」
先ほどとは比べ物にならない殺気と凄まじい剣戟が【灰】と呼ばれた少年を襲う。
それでも少年は飄々とアリスの剣を受け、いなし、軽い身のこなしで躱していく。
広場まで躍り出たアリスと少年に狩人たちの歓声が上がる。『スコア2位の【竜殺し】と【灰】の決闘だ』『こんな戦い滅多に見れねぇぞ』『やっちまえ【竜殺し】!』
あっという間にギルド街は元のお祭り騒ぎへと戻ってしまった。
「俺、お前と戦う理由がないんだけど」
「私にはあるっ‼︎〈魔剣〉、舞え〈村正〉ッ‼︎」
突如、アリスの太刀から冷気が立ち上り吹雪が渦巻く。それは徐々に形を変え、唸り、一匹の竜の姿に固定される。
「喰らえッ‼︎」
止めを刺さんばかりに振りかぶられた刀を少年は、片手で受け止める。
流石にアリスもこれには驚いたような表情を見せる。
「……やり過ぎだ。ここ街中だって言ったろ?」
先程までの少年からは想像もできない底冷えする声に観客は当然、アリスまでも戦慄する。
アリスと比べ物にならない殺気を振りまく少年は絶対零度の刀身から冷気だけを灰にする。
宙を舞う吹雪は空に消え、氷の龍は大量の灰となって跡形もなく姿を消した。
「さてと、ショーは終わりだ。散った散った」
度の過ぎたスコア2位と1位の決闘はこうして幕を降ろした。
大分遅くなってしまいました。すみません。戦闘シーンなんてまだまだ拙いところが目立ちますが、精進するのでよろしくお願いします。コメントで良かった、悪かった、面白かった、つまらなかった、など頂けたら嬉しいです。アドバイスがあれば欲しいです。では、また。