第二話「私の好きなひと」(後編)
私には大切な友だちがふたりいた。ひとりは昔からの幼馴染の男の子。いつも私のそばにいてくれて、いつも私に優しくしてくれるひと。私にとっては優しいお兄ちゃんみたいなひと。もうひとりは、高校生になってから初めて出来た友だち。でもいつからか、私にとって彼女は友だちじゃなくなっていた。
このキモチはたぶん、恋。
私は彼女に恋をしていた。彼女は私の友だちから私の好きなひとになっていた。
このキモチは私の心を締め付ける。
何度も彼女への想いを心の中から追いだそうとして、かき消そうとして、塗りつぶそうとした。でも、やっぱり自分の想いに嘘はつけなかった。
好き。すき。スキ。どうしようもなく好き。
好きになればなるほど、この胸はズキズキと痛む。でも、好きになればなるほど、彼女とすごす毎日はキラキラと輝いて、そんな日々が心地いいと感じる。
私はどうすればいいんだろう。
君はどうしたいの?君はどうなりたいの?
迷う私を救い出してくれたのは彼のそんな言葉。私がどうしたいのか、どうなりたいのか。自分のキモチに素直になること。自分のキモチを受け入れること。
私は彼女とずっといっしょにいたい。友だちとしてもそれ以上の関係になってもずっとずっとそばにいたい。
この想いを伝えたい。
拒まれるのは怖い。嫌われるのはもっと怖い。だけど、自分のキモチを伝えられずにいるのが一番怖い。このまま終わるのが一番嫌だ。
だから、言わなくちゃ。伝えなくちゃ。
今の関係を壊してしまうのを怖がってるままじゃ前に進めない。大丈夫、彼が背中を押してくれたから。私はどんな結果になったって受け止める。
私は家の近くの公園で人を待っていた。そのひとは大切な友だち。でも明日にはどうなっているかはわからない。もしかしたら嫌われてるかもしれない。もしかしたら恋人になっているかもしれない。それとも、友だちのままかもしれない。先のことなんてわからないけど、それでも私はもう決めた。
「ごめん、遅くなって...。どうしたの?こんな時間に呼び出して」
後ろから不意に彼女の声。私はどれくらい考え事をしていたのか。気がつけばここに来てからもう30分もたっていた。
話したいことがあるの。
「話したいこと?」
うん、話したいこと。あのね...。
いざ、言おうとすると唇がうまく動かない。
しばらくの沈黙。彼女は私の言葉を待っている。私は、言わなくちゃいけない。自分のキモチを彼女に伝えなくちゃいけない。ふるえる唇をゆっくり動かして、ようやくその四文字の言葉を発する。
すきです。
私のその言葉に彼女はなにも答えない。彼女の沈黙に私もなにも言えな
い。彼女は今なにを感じて、なにを思って、なにを言おうとしているんだろう。
夜の公園の静けさがこれほど嫌に感じたことははじめてだった。