第二話「私の好きなひと」(前編)
私には好きなひとがいる。でもそれは普通の恋じゃない。
私が好きになったのは男の人じゃなくて、女の子。初めて彼女に出会ったのは三年前の4月だった。
今日は高校の入学式。私は幼馴染の男の子と一緒に歩いていた。この高校はこの地域でも有名な進学校で私達と同じ中学校の人は私と彼をあわせて六人しかいない。それにクラスは七組もあってみんなバラバラにのクラスなってしまっていた。幼馴染とも別のクラスになってしまったですこし心細い。それでも同じ学校にいるから毎日会えるしいいかな、とも思う。
そんなことを考えながら歩いていたら教室のある階について、幼馴染とまたあとでね、なんて言葉をかけあって別々の教室に向かう。予想はしてたけど、教室に入るともうすでにいくつかのグループができていた。同じ中学校出身の人たちでもう集まりができているんだと思う。その輪のなかに入っていくにはなかなか勇気が必要だけど、私にそんな勇気はなくてまっすぐ自分の席に向かう。
やっぱりこうなっちゃうよね…。
私と同じでみんな友だちができるか不安なんだ。だから最初はできるだけ中学校が同じだった人といっしょにいる。私でもたぶんそうすると思うしすぐに友だちができるなんて思ってはいなかった。
とりあえず席に座って荷物をおいて、それから彼のところに行こうかなと思っているといきなり左の肩をぽんぽんと叩かれる。
なんだろうと思ってふりむくと私よりすこし背の高い女の子がにっこり笑いながら立っていた。
「あなたもひとり?」
私に話しかけてきた女の子は女の私でもはっとするような美人さんだった。
ほっそりした顔に二重だけど切れ長の目、スーッと通った鼻の下にはひかえめな小さくてうすい唇。肩甲骨のあたりまでのびた髪は彼女の動きにあわせてサラサラとゆれている。クールビューティーという言葉がぴったりな子だと思った。
あなたも、ということは彼女もひとりなのだろうか。
「私3月にこっちに引っ越してきたばっかりで友達いないんだよね。それにみんなもう仲良くなっちゃってるみたいで輪に入りづらくてさ。そしたらひとりで座ってる子がいたから話しかけてみたんだ」
そうなんだ。私は仲の良い友だちと違うクラスになっちゃって、今はひとりかな。
「うん、じゃあさ友だちになってよ」
「友だちになって」という彼女のなにげない言葉に私はすこし違和感を感じてしまう。
友だちってなってもらうものじゃなくて気づいたらなってるものなんじゃないかな。
私は彼女に思ったままその言葉を言う。幼馴染の彼とそうだったように、気がついたらそうなっている。それがほんとうの友だちだって、私はそう思う。
「そっか…そうだよね。友だちは気づいたらなってるもの、か。その言葉を言えるのってすごいと思う。」
そんなことない。ふつうのことを言っただけだよ。
私のその言葉を聞いた彼女は目を細めてまた笑う。
「そのふつうのことをちゃんと言えるのがすごいんだよ。簡単にできることじゃないと思う」
そう、なのかな。
自分ではよくわからないけど、きっとここまで言うってことはそうなのかもしれない。
「じゃああらためて、これからよろしくね。えーっと…名前、聞いてなかったね」
そういえばそうだったね。はじめて会ったひととこんなにおしゃべりしたのはひさしぶり。なんかおかしくて笑っちゃうね。
「ほんとだね。私もおかしくなってきちゃった」
彼女といると自然と笑みがこぼれてくる。はじめて会ったのに不思議な感じ。でも私はこの感じを覚えてる。幼馴染の男の子とはじめて会ったあの日に感じた感覚だ。きっと彼とそうなれたように、彼女とも素敵な友達になれる。そう思った。