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007 春らんまん/違和感

「にゃあ!」

 ミケは嬉しそうな鳴き声で、同じ枝に辿り着いた伴内を迎える。

「よしよし、こっちにおいで」

 伴内は震えているミケを、優しく左手だけで抱き抱えると、枝に座って下を見る。

(下りる時は片手しか使えないから、慎重にルート確認しないとな)

 ミケでは無いが、伴内にとっても上りより下りる方が難しいのだ。まして、ミケを抱えている左手は、使えないも同然なのだから。

 もっとも、多少は難易度が上がるとはいえ、伴内にとって不可能という程の事では無い。足場にしたり手で掴める枝を把握し、下りるルートを確認した伴内は、すぐに自分がミケを連れて、下で待っている妹の元に戻れるだろうと確信する。

「――?」

 しかし、実際に下り始めようとする直前、伴内は何らかの違和感を覚える。そして突如、左腕の中にいるミケが総毛を逆立て、ふーっと唸り声を上げ始める。

「どうした、怖いのか?」

 伴内は優しげな目でミケを見ながら、声をかける。

「大丈夫だよ、すぐに幸の所に連れて行って……え?」

 ミケに声をかけながら、伴内は違和感の正体に気付く。違和感の正体……それは、桜の花びらの動きだった。

 先程まで、風に舞いながら落下していた無数の桜の花びらが、全て重力に逆らい、樹上に向かって舞い上がっていたのだ。上昇気流に舞い上げられているというよりは、何か上方にある存在に、吸い寄せられているかのように。

「何だ?」

 伴内は桜の花びらの動きの流れを読み、空の一点を見詰める。伴内が上っている桜の樹から、五十メートル程離れた地点の、地上から五十メートル程の高さの空中に、桜の花びらは向かっていた。

 桜の花びらは、黒い小さな点に向かっていた。青空に穿たれた穴としか表現のしようが無い黒い点に、辺り一面の桜の樹から離れた、薄桃色の花びらは吸い込まれていたのだ。

 穴は次第に大きさを増し、桜の花びらが舞い上がる速度は、穴の大きさに比例するかのように加速し続けている。伴内の背筋に、悪寒が走る。

 得体の知れない空に穿たれた穴が、桜の花びらを吸い込んでいる事と、その吸い込む力が次第に増大しているのを察した伴内は、これから先に起こり得るだろう危機を、察したのだ。自分達がいる場所が、古来より猫神隠しという神隠しが多発する、猫神山の中だという事も、伴内が察した危機を裏付ける。

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