006 春らんまん/桜の樹上
「ミケ! どこにいるの? ミケの大好きな煮干だよー!」
幸は声を張り上げながら、桜の木々の間を歩き続ける。すると、何処からか微かな……それでいて訴えかけるような猫の鳴き声を、二人の耳は聞き取った。ミケの泣き声である。
伴内と幸は顔を見合わせて、泣き声が聞こえてきた方向に目をやる。泣き声が聞こえてきたのは、二人の間に立っている大きな桜の樹の、枝の上だった。
「ミケ!」
ミケは桜の樹上……高さ七メートル程の辺りの、幹から分れている枝の上で、震えていたのだ。幸は嬉しそうに見上げながら、樹上のミケに声をかける。
「成る程、猫桜の森に遊びに来て、桜の樹に上ったら降りられなくなったんで、家に帰って来れなくなった訳か」
桜の樹の元に駆けつけた伴内は、幸と共に樹上のミケを見上げる。
「それにしても、仔猫の癖に、あんな高さまで良く上ったな」
伴内は、関心したように呟く。
「見付かったのは嬉しいけど、どうやって助けよう? 梯子も何も無いし……」
ミケが見付かり、安心した幸は、どうやってミケを助けるかについて、頭を巡らせ始める。
(パチンコで枝を撃って、ミケを驚かせて落っことしてから、受け取るか……)
パチンコが得意であり、常に携帯している伴内は、パチンコでミケを驚かせて木の枝から落下させ、地上で受け取ろうかと考える。しかし、まず誤射する事は無いとは言え、パチンコで愛猫を狙われる幸の方は、良い気分では無いだろうなと思い、伴内は考え直す。
「俺が上って、捕まえて来てやるよ」
「ホント? ありがとう、兄貴! でも、大丈夫?」
「何とか枝もあるし、この程度の高さなら余裕で上れるって」
そう言うと、身軽さと運動神経には自信のある伴内は、桜の樹の幹を足場として跳躍し、高さが二メートル強の辺りにある枝を掴み、ぶら下がる。すると、そのまま猿のような身軽さで、するすると伴内は桜の樹を上って行く。
程なく、伴内はミケの元にまで辿り着いた。