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005 春らんまん/ミケ

 ミケは三ヶ月程前から、大瀧家で飼い始めた仔猫である。黒吉が行方知れずになってから、大瀧家ではペットを飼う事を控えていたのだが、幸が三ヶ月前、生後数週間という状態で捨てられていた仔猫を拾ってきてしまい、ミケと名付けて飼い始めたのだった。

 黒吉の場合も、仔猫の時に捨てられていた黒猫を、伴内が黒吉と名付けて飼い始めた。今度は幸が、小学生時代の伴内と同じ事をしている訳である。

 その幸が可愛がって面倒を見ているミケが、昨夜から行方知れずになっている。大瀧家の面々はミケを探したのだが、ミケは見付からなかったのだ。

 ところが今朝、近所の人々にミケを見なかったか、尋ねて回った伴内と幸は、猫神山の麓で、猫神山に入って行く、赤い首輪をした三毛の仔猫を見かけたという目撃談を、数名から耳にする事になった。幸はミケに、赤い首輪を着けさせていたのである。

 ミケらしき仔猫が、猫神山に入ったらしいという情報を得た幸は、即座に猫神山に入って、ミケを探そうと言い出した。しかし伴内は、猫神山に入ってミケを探す事を躊躇い、幸を止めようとした。

 猫神山への入山が禁じられているから、伴内は躊躇ったのでは無い。ミケが猫神山に入ったという話を聞いた時、伴内の頭の中に、古い記憶が蘇った為、伴内は躊躇ったのだ。

 伴内の頭の中に蘇った、古い記憶……。それは行方知れずになった黒吉から来た……という名目になっている、一通の不思議な手紙に関する記憶である。

 かって伴内が飼っていた愛猫……黒吉が、伴内に送って来た手紙には、黒吉は猫神山で猫神隠しにあったという内容が、書いてあったのだ。無論、その手紙自体は悪戯に決まっているだろうから、書いてある内容に関しても、信憑性など無いに等しいと、伴内自身も考えていたのだが。

 黒吉からの手紙自体は、悪戯だったのだろうと思ってはいるのだが、それでも手紙に書かれていた内容に関する記憶と、ミケが猫神山に入ったという今回の一件が、頭の中で繋がり、伴内は嫌な予感がして仕方が無かった。それ故、伴内は猫神山に入る事を躊躇い、幸を止めたのである。

 しかし、愛猫ミケの身を案じる幸は、兄の制止を聞かず、一人でも猫神山に入り、ミケを探すと言い出した。それ故、妹だけを猫神山に入らせる訳には行かないと判断した伴内は、幸と共に猫神山に入り、ミケを探し始めたのだ。

 猫神山の麓から猫桜の森に入り、既に一時間以上、伴内と幸はミケを探し続けていた。ミケの好物である煮干の袋を手にして、ミケの名を連呼しながら。

 だが、未だにミケは二人の前に姿を現さない。普段は温和な幸が伴内を叱責したのは、ミケが中々見付からないが故の焦りのせいなのだと、伴内は察していた。

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