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004 春らんまん/猫神山と猫神の森

 少し強めの風に煽られ、桜の花びらが舞い散る。二千八年の三月三十日の朝、磯街市の中央部にある、標高三百メートル程度の低山……猫神山では桜の花が咲き誇り、まさに春爛漫といった感じである。

 山腹を薄桃色に染める程の大きな桜の森……猫桜の森が、猫神山には存在する。本来なら、この春真っ盛りの時期、花見客で溢れ返っている程の、見事な桜の森なのだが、猫桜の森には花見客は一人もいない。

 何故なら、猫桜の森がある猫神山は、基本的に人の立ち入りが禁止されているのだ。別に業突く張りの地主が、人を締め出している訳では無い。古来より、この猫神山では猫神隠しと呼ばれる神隠しの一種が多発し、多くの行方不明者を出している為、猫神山自体への立ち入りが禁止される仕来りが出来たのだ。

 もっとも、立ち入りが禁止されているからといって、誰も立ち入らないという訳では無い。春爛漫の猫桜の森には今現在、少年と少女が立ち入っている。

 来月から地元の高校に進学する予定の中学三年生……大瀧伴内と、伴内の妹であり、四月から伴内が卒業したばかりの中学への進学が決まっている、大瀧(さち)の二人が。

「――綺麗といえば綺麗なんだけどさ、微妙に妖しげな感じなんだよねぇ」

 森の中を満たす強い春の匂いを嗅ぎながら、薄桃色に染まる辺りの景色を見回し、伴内は呟く。色褪せたジーンズに白い長袖のTシャツという、ラフなファッションに身を包んだ伴内は、背は歳相応なのだが、顔が童顔なせいもあり、やんちゃ坊主という小学生時代の面影を、色濃く残したままである。

「兄貴! 花見に来たんじゃないんだから、ちゃんとミケ探してよ!」

 二十メートル程離れた場所にいる、兄同様のファッションに身を包んでいるボーイッシュな幸が、伴内を叱責する。

「分ってるって! ちゃんと探してるってば!」

 伴内は大声で幸に言い返しつつ、辺りを見回して、三毛猫を探す。伴内と幸は、昨夜から行方知れずになっている三毛猫……ミケを探す為に、猫桜の森に入っているのだ。

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