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003 猫街より/誰かの悪戯?

「クロキチからの手紙……そんな事って」

 呆然とした顔で呟く伴内に、千鶴が手紙の内容を尋ねる。伴内は黙って、手紙を千鶴に手渡す。

 手紙に目を通した千鶴も、すぐに伴内同様の驚きの表情を浮かべる。

「やっぱり、誰かの悪戯かしらねぇ。クロキチが手紙なんて、書ける筈が無いもの」

 千鶴の言葉に、伴内は頷く。

(確かに、ありえないよな……クロキチが人間の文字で手紙を書いて、俺に出すなんて)

 伴内も千鶴も、黒吉が手紙を書いて寄越す事など有り得ないと考え、送られてきた封書は誰かの悪戯だと、結論付けようとしていた。

 何故、黒吉が人間の文字で手紙を書いて寄越す事が、有り得ないのか? それは、黒吉は伴内が弟のように可愛がっていた、大瀧家の飼い猫だからだ。去年の春に、外に一匹で遊びに行ったきり、行方不明になってしまったのだが。

 普段は一匹で外に遊びに行ったりなど、決してしなかったというのに。

(落ちこんでる俺を元気づけるために、家族か友達の誰かが、黒吉からの手紙という事にして、俺に出したんだろうな、きっと……)

 可愛がっていた黒吉が行方知れずとなり、伴内は暫くの間、落胆し続けていた。そんな自分を励ます為に仕組んだ、誰かの悪意の無い悪戯なのだろうと、伴内は思った。

 黒吉からの手紙の話は、その日の夕食時、家族団らんの話題となり、それとなく伴内は誰が手紙を書いたのか探ったのだが、誰が送ったのかは、分らなかった。無論、家族や友人の誰かの悪戯なのだろうという結論で、大瀧家の意見は一致したのだが。

 結局、誰が書いた手紙なのか分らないまま、その手紙は数日後には、大瀧家の中で話題に上がる事も無くなった。しかし、伴内は誰が書いたのか分らない、その手紙を取っておいたのだ。

 その手紙が何かの間違いで、本当に黒吉からの手紙だったらいいなと、小学生の子供らしい期待を、伴内は僅かに抱いていた。弟のように可愛がっていた黒吉が、行方不明になっているとはいえ、死なずに何処かで無事に生きていてくれている事の、その手紙が証拠のように、小学生の伴内には思えたのである。

 そして時間は過ぎ去り、黒吉の事はともかく、猫街から送られてきた黒吉からの手紙の事は、伴内の記憶の奥底に沈み、中学生になった頃には、殆ど思い出しすらしなくなっていた……。




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