192 風をあつめて/それって、あんな感じの奴?
光の風で一度だけ、風車を光らせる事に成功した伴内と千風は、その後も光の風が来る度に、草原を駆け回り続けた。しかし、その後の一時間半、二人は一度も光の風で、風車を光らせられずにいた。
体力を相当に消耗してしまった伴内と、伴内程には消耗していないものの、矢張り疲れの色を見せ始めている千風は、一時的に草原の上に腰を下ろしていた。草原の上に座って身体を休めていた二人は、山頂から響いてきた支那紋の声を聞いて、怪盗紫蝙蝠が神風神社に現れ、御神体である山吹車を盗み出したのを知り、驚く。
事件の成り行きが気になった伴内は、山頂の方を見上げながら、千風から簡単に、紫蝙蝠に関する解説を受けていた。伴内は紫蝙蝠を、知らなかったのだ。
千風は自身も山頂を見上げながら、怪盗紫蝙蝠に関する知識の要点をまとめて、伴内に解説する。
「――成る程ね、ハンググライダーを使って逃げる事が多いんだ」
伴内の言葉に、千風は頷く。
「服同様に悪趣味な、紫色のハンググライダーでね」
千風の言葉を聞いた伴内は、草原の北側……鎮守の森がある方向を見上げ、指差す。
「それって、あんな感じの奴?」
伴内の差した方向……二百メートル程先にある鎮守の森の前では、紫色の人影が、折り畳まれていた紫色のハンググライダーを広げ、大きな凧のような形に整えていた。
「そう、あんな感じの……って、あれ紫蝙蝠だよっ!」
驚きの声を上げる千風の目線の先では、ハンググライダーの準備を終えた紫蝙蝠が、助走に入っていた。麓の方から風が吹き上げて来る急斜面の草原は、ハンググライダーが離陸の助走を行うのに適している。
十メートル弱の助走で、十分な揚力を得たハンググライダーは、ふわりと宙に浮き、紫蝙蝠の両脚は地を離れる。低空を滑るように飛びながら、ハンググライダーは伴内や千風に近付いて来る。
「待ちやがれー!」
鎮守の森の中から、木の葉を身体中にくっつけたハジキが、怒鳴り声を上げながら飛び出して来て、ハンググライダーを追いかけ始める。