019 春らんまん/再生の書
「まず、洗礼について説明する前に、あたし達に人間達が言う所の猫耳や尻尾が、何故に付いているのか、説明した方が良いと思うから、そっちの方を先に説明するよ」
「あ、はい」
「人間である伴内には信じ難い話になるだろうし、あたし達自身も自分達の由来は、古文書や古来よりの言い伝えなどの伝承でしか、知る由も無い。まず、その事を前提として、これからの話を聞いてくれ」
白玉の言葉に、伴内は頷く。
「――伝承によれば、はるか昔、かって地球を統べていた万物の霊長たる人類は、神へと至る進化の道程の最中、自滅に近い形で滅んだそうなんだ。多くの生物を巻き添えにして」
「遠い昔に、人類が滅んだ?」
伴内は、驚きの声を上げる。
「ああ、一人残らず滅んだと、伝承などでは伝えられている」
「だとしたら、ここは未来の世界なの? いや、シラタマさんの話が、本当ならだけど」
白玉の話が事実なら、伴内の言葉通り、伴内は未来にタイムスリップした事になるのだ。
「その通り。伴内がいた世界を基準にすると、正確な所は分って無いが、数百年くらい先の未来なのさ。信じられないかもしれないが、本当の話だ」
伴内の問いに答えてから、白玉は話を続ける。
「地球を巻き添えにしそうな程のトラブルを起こして、人類が滅び去った後、地球に神々が姿を現した。荒れ果てた地球の惨状を目にして、憂いた神々は、世界の再生に取り掛かったそうなんだ」
ソファーの近くにある本棚から、古臭い書籍を取り出し、白玉は開く。
「これは、『再生の書』と呼ばれる古文書さ。本物は金庫に仕舞ってあるから、これはレプリカだけどね。この『再生の書』に、神々が世界を再生した経緯が、記されている」
再生の書のページを開き、白玉は伴内に見せる。SF映画やアニメなどで描かれた未来世界が、完膚なきまでに崩壊したディストピアに、闇に覆われた空から、光り輝く人型の神が数人現れて君臨する、写真と見紛うリアルなイラストが、伴内の目に映る。