189 風をあつめて/自分達の夢は自分達で叶える方が、アタシ等向きだとは思わないかい?
祭壇の近くには、警察官の制服が脱ぎ捨てられている。
「警備の警察官に変装して、祭壇の近くまで近付いていたという訳か、変態紫蝙蝠は……」
脱ぎ捨てられた警察官の制服に気付いた支那紋は、拡声器を使いながら呟く。
「誰が変態紫蝙蝠だっ! 怪盗だよ、怪盗! 怪盗紫蝙蝠!」
ムキになって、変態では無く怪盗だと怒鳴り散らす紫蝙蝠を見て、ドドンパは笑い出す。
「支那紋にからかわれる程度の怪盗かよ!」
「紫蝙蝠か……あいつにゃ、確か警察連合から、莫大な賞金がかけられてた筈だな?」
ハジキに問いかけられたペンチは、頷く。
「確か一億円くらいの賞金が、かかってた筈ですけど……」
紅髑髏団と違い、無法地帯では無い様々な街で盗みを働いた紫蝙蝠には、様々な街の警察組織の連合体である警察連合から、莫大な額の賞金がかけられているのだ。
「一億か……悪く無いね。風の神様に願掛けて夢を叶えて貰うより、一億の賞金手に入れて、自分達の夢は自分達で叶える方が、アタシ等向きだとは思わないかい?」
ハジキの煽るような問いかけに、紅髑髏団の面々は賛同の声を上げる。
「決まりだ! 変態紫蝙蝠の野郎を、とっ捕まえるよっ!」
紅髑髏団の面々は拳を夜空に突き上げ、声を上げると、強引に人々を押し退けて境内の中を、神社の社殿に向かって進み始める。千風に匹敵する程に身軽なハジキは、境内を埋め尽くす人々を、地面の様に踏みつけながら、神社の社殿に向かって突進して行く。
「――一億円かぁ……光の風を待ってるより、おもしれえかもな」
五秒間程風車を眺めながら考えて、ドドンパは決意する。
「よっしゃぁ! その一億円、オイラが貰ったっ!」
ドドンパも怪力で人々を除雪車のように押し退けながら、神社の社殿に向かって突進し始める。すぐにドドンパは、紅髑髏団の連中に追い着く。
「ドドンパ、てめえまた紅髑髏団の獲物を、横取りする気かっ!」
紅髑髏団の青年団員が、ドドンパに食って掛かるが、ドドンパは気にしない。
「獲物は、獲った者勝ちだってのよ!」
ドドンパや紅髑髏団の面々が、一般人達を蹴散らしながら、社殿を目指し始めたのを見た、神風神社の警備を担当していた警察官達の一人が、怒鳴り散らす。
「素人どもは引っ込んでろ、狙撃の邪魔だっ!」
その怒鳴り声が合図であったかのように、境内の各所に展開していた警察官達が、次々とホルスターから拳銃を抜く。リボルバー式の小型拳銃、南部十三式を。