018 春らんまん/白玉研究所
白玉研究所は、「白玉研究所」という明朝体の看板が掲げられた、古臭くて大きい洋館風の屋敷である。壁の至る所には細かいヒビが走り、蔦が屋敷を囲むように絡み付いてるので、一見すると相当に怪しげな建物に見える。
「シラタマさん、いる?」
その怪しげな建物のドアを開け、千風は自分の家に入るかのように、気楽に白玉研究所の中に入って行く。伴内も、千風の後に続く。
「千風かい。そっちのはいからさん……人間の方も、その様子なら大事無いようだね」
応接用のソファーに座り、新聞を読んでいた白玉が、新聞から千風と伴内に目線を移し、話しかけてくる。
(この人も、猫耳と尻尾がある。一体、どうなってんだ?)
伴内は白玉の頭と腰の辺りに目をやり、猫耳と尻尾の存在を確認する。はいからさんという言葉で、人間である自分の事を、白玉が表現したのも、少し疑問に思ったのだが、今の伴内にとっては、猫耳と尻尾が付いた人間が実在している方が、興味深かった。
「まぁ、大した怪我では無かったようだから、お前さんの治療と面倒は、千風に任せておいたんだ。あたしは仔猫の方に、洗礼を受けさせなければならなかったからね」
白玉の話を聞いて、伴内は千風だけで無く、白玉にも助けられたという話を、千風から聞いていたのを思い出し、礼を言わなければなと思う。
「昨日は助けて頂いたそうで……どうも有難うございます」
「礼儀を弁えている奴は好きだよ。あたしは鈴木白玉、この街では主に科学者をやってるモンだ。ま、シラタマさんとでも呼んでくれ」
「俺は大瀧伴内、伴内でいいです。それで、ミケ……俺が連れていた三毛の仔猫を、シラタマさんが預かっているというか、洗礼を受けさせてるって、千風に聞いたんですけど」
「ああ、昨夜から洗礼作業に入ってる。終わるまで、一週間以上はかかるだろうがね」
「その……洗礼って何なんですか? それと……千風やシラタマさんに付いてる、猫みたいな耳や尻尾は一体……」
伴内は続け様に、気になっていた事柄に関する質問を、白玉にぶつける。
「――説明しなかったのかい?」
白玉は千風に、問いかける。
「俺が説明するより、シラタマさんが説明した方が、説得力あると思うし……」
千風の返答を聞いた白玉は頷き、伴内が疑問に思っている事柄について、説明を始める。