177 風をあつめて/冒険って言えばよ、凄いネタ手に入れたんだ
「冒険って言えばよ、凄いネタ手に入れたんだ」
如何にも内緒話だという雰囲気を漂わせつつ、らしくない小声で、ドドンパは伴内に語りかける。
「――また紅髑髏団から情報盗んだのか?」
「今度は違うって。はいから湾の近くに、船乗りの連中が集まる酒場があるんだけどよ、そこで昨夜……船乗り連中が話してたのを聞いたんだ。はいから湾の沖に、幽霊島の幻が出たって話をさ」
「随分とベタな名前だけど……何なんだよ、幽霊島って?」
「幽霊島は、昔から数十年に一度、はいから湾の沖に出現する浮き島なんだ。遠い昔に滅んだ人類の幽霊が大量に出る事から、幽霊島って呼ばれてる」
「人類の幽霊だけ? 猫人の幽霊は出ないのか?」
「ああ、出るのは人類の幽霊と……人類の遺産っていうお宝だけさっ! 幽霊島はお宝がザックザク出て来る、宝島なのよっ!」
「その宝島である幽霊島に、ドドンパは行くつもりなのか?」
「おうよ! 幽霊島クラスの有名な宝島……冒険スポットが出現したのに、冒険しに行かなかったら、トレジャーハンターであり冒険者であるドドンパ様の名が廃るっての!」
興奮気味のドドンパは、スプーンを振り回しながら、話を続ける。何時の間にか、小声では無くなっている。
「幽霊島は出現する七日前から、まず幻が出現し始めるんだ」
「幻……本物が出現する前に、幻だけがはいから湾の沖に現れるのか?」
「そうよ、昨夜聞いた話では、幻が出始めたのが十二日の夜だったらしいから、本物が出現するのは、風祭りが終わった四日後……十九日の夜辺りだな」
「何で先に幻が出て、本物が七日後に出現するんだろう?」
「伯母さんの話じゃ、幽霊島は時空を漂流している、存在だからなんだそうだ」
「時空を漂流してる?」
「難しい話は、オイラにゃ分んないけど、猫神の森と同じ……いや、猫神の森の物凄く酷い状態なのが、幽霊島なんだとよ」
猫神の森は、遠い昔に神々が過去から人類を輸入しようとして、時空の通路を開いた場所である。結局、過去からの人類輸入計画が頓挫したせいで、時空の通路は閉鎖されたのだが、猫神の森は未だに時空が不安定化する事があり、猫神招きや猫神隠しという、時空移動事故が発生したりするのだ。