169 風をあつめて/意外だな、あんたが自分から男を、パートナーに誘うなんて
「――それにしても、食堂の中まで風車飾る事は無いと思うのよ、幾ら風祭りが近いからって」
花のように花瓶に挿された風車を、指で突付いて回しながら、支那紋は続ける。
「クーラーの風でなんか、回りゃしないんだからさ」
「確かに外に飾られた方が、風車も喜ぶだろうね。風も吹かない……クーラーの効いた食堂に飾られるよりは」
そう言いながら、二人用のテーブルを挟んで、支那紋の対面に座っている千風は、急須で自分と支那紋の湯飲みに茶を注ぐ。食事を始めて、既に二人とも二杯目の茶である。
「あー、そうそう。風祭りといえば、今年も職場の連中や弟に頼まれてるんだけどさ……」
湯飲みを受け取りながら、支那紋は別の話題を振り始める。
「今年の風集め、パートナーに誘いたいから、千風を紹介してくれって。トータルで十二人程」
支那紋は昨年の風祭りの時期も、千風を風集めのパートナーとして誘いたがっている職場の男性や弟から、千風を紹介して欲しいと、頼まれていた。今年も昨年同様の依頼を、支那紋は色々と、頼まれてしまっているのである。
「悪いけど、全部お断り」
去年と同様に、素っ気無い答えを、千風は支那紋に返す。
「ま、そうだろうとは思ってたけどね。あんた今年も、一人で風集めに参加するの?」
「――いや、今年は……その……」
目線を逸らして言葉を濁す千風の様子を見て、支那紋は今年の千風が、去年までとは違う状況である事を察する。
「その様子だと、一人で参加する訳じゃないみたいね。ひょっとしたら、今年はパートナー決まってるの?」
「別にパートナーって訳じゃないんだけど、今年は風祭りも風集めも初めての伴内を、サポートしてあげようかなーと思って、一緒に行こうって誘ったんだ」
千風は手にした湯飲みを揺らしながら、支那紋の問いに答える。
「そりゃ、立派なパートナーでしょうが。意外だな、あんたが自分から男を、パートナーに誘うなんて」
「だーかーらー、パートナーって訳じゃなくて、あくまで初心者の伴内のサポートを……」
「空鯨に行って空いろのくれよん手に入れてくるわ、迷いの森に入って夏を呼ぶわ、はいから湾の底に潜って人類の遺産を漁るわ、暗闇坂を夜中に上るわ……猫街の元々の住人でも出来ないような……やらないような真似を、平気で色々とやってる伴内君に、そんなサポートなんか要る訳が無いでしょ」
支那紋は呆れたような顔で、続ける。
「あの子だったら、一人でも他の住民連中より、よっぽど上手く風を集めるって」
「風集めって、結構難しいんだから。幾ら伴内でも、初めてだと一人では、上手くは行かないよ」
そう反論すると、千風は湯呑みに口をつけ、茶を一口だけ飲む。