168 風をあつめて/怪盗紫蝙蝠
「紫蝙蝠が、猫街に戻って来たのか?」
千風は小声で、驚きの声を上げる。紫蝙蝠とは、猫街や他の街を荒らしまわった、怪盗紫蝙蝠の事である。猫街を荒らしていたのは五年程前までであり、その後は他の街に移って活動していたので、猫街からは姿を消していたのだ。
紫色のハンググライダーを犯行に利用する場合が多く、服装も紫を好む紫蝙蝠は、変装と格闘術の達人であり、娯楽作品に出て来る忍者のような、妖しげな術を使う。中でも変装術は得意であり、様々な外見を使い分ける事から、年齢や性別は不明なのである。
ただ、身長が一メートル八十センチ程の長身である事は間違いないらしく、これまで確認された紫蝙蝠の変装は、全て一メートル八十センチを超える長身の人物だったりもする。自分の身長より低い姿に変装するのは、変装術の使い手の紫蝙蝠でも、不可能なのだ。
「だから、まだ噂の段階だってば。それで……千風は何しに来てるの?」
「支那紋と同じで調べ物だけど、何を調べているかは、守秘義務があるから内緒」
「――あ、そう。ところで、お昼もう食べた?」
「まだ。これから食べようかなと思って、食堂行くとこ」
「じゃあ、一緒に食べようよ。あたしも食堂行く途中だったんだ」
支那紋の誘いに、千風は同意する。食堂で共に昼食をとる事にした二人は、並んで食堂に向かって歩き始める。
「――この暑いのに黒ずくめなんて、どうかしてるんじゃない? せめてTシャツくらい白いの着なさいよ」
黒のジーンズに黒のTシャツという、何時も通りの黒ずくめファッションの千風に、支那紋はアドバイスする。
「黒が好きっていうか……黒い服着てると、落ち着くんだよね」
素っ気無い口調で言い放つ、黒以外の服を着るつもりも無さそうな千風を見て、支那紋は呆れたように溜息を吐く。