表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
165/250

165 風をあつめて/千風が昔、惚れてた男の事だよ

「――そういえば、一緒に風集めに参加しようって千風に誘われて、オーケーしたんだ」

 伴内は、言葉を続ける。

「パートナーとして誘われたのかどうかは知らないけど、とりあえず風集めには、千風と一緒に行く予定になってる」

「ち……千風に先を越されていたなんて……」

 誰にも聞こえない程の小声で、ペンチは悔しげに呟き続ける。

「あいつ、そっちの方面の積極性はゼロだと思ってたのに……油断したっ!」

 ペンチに続いて、今度はドドンパが意外そうな顔で呟く。ペンチとは違い、伴内にも聞き取れる程の声で。

「千風がねぇ……。あいつは毎年、一人で参加してたのに……ようやく過去は吹っ切ったって事なのかな」

「過去を吹っ切ったって……どういう事?」

 ドドンパの呟いた内容……千風の過去が気になった伴内は、ドドンパに尋ねてみる。

「千風が昔、惚れてた男の事だよ。俺もそんなに詳しい話は知らないんだけどな、前に酔っ払った伯母さんが話してたのを、聞いた事があるだけだから」

 風車を飾り付ける作業の手を休め、ドドンパは伴内の問いに答え始める。

「事故か何かで、離れ離れになったとか死んだとか……とにかく、もう二度と会えない羽目になっちまったらしいんだけど、千風はその男の事が、忘れられなかったらしいんだよな」

(やっぱり、この話か……。千風が、触れたがらない過去の話……)

 千風が過去に好きだったらしい男の話を、初めて伴内が聞いたのは、最初に猫街役場に行き、支那紋と会った時だった。

「ただ、昔大好きだったけど、離れ離れになっちゃった……兄貴みたいな男の人が忘れられないからって、男を一切寄せ付けないだけというか、恋愛自体から、自分で退いちゃってるだけの話で」

 その際、千風は支那紋の話を、即座に制止した。そして役場からの帰り道、伴内はその話について千風に尋ねたのだが、千風は返事を濁し、それ以上は喋らないという意志を、態度で示したのだ。

 以降、伴内と千風の間では、その話……千風が過去に好きだった相手に関する話は、何となくタブーに近い扱いになっている。支那紋も千風に強く口止めされたのだろう、その話については尋ねても、口にしなくなってしまった。

「――昔の男が忘れられないせいで、あいつは一切、男を寄せ付けなかったらしいんだよ。それなのに、あいつ伴内だけは寄せ付けたんだよな、どういう訳だか」

「俺だけ寄せ付けた……」

「だから、おめーに出会って昔の男の事を、やっと吹っ切れたんじゃねえかって思っただけの話よ。毎年色んな連中に誘われていながら、一人で参加してた風集めに、今年は自分から誘った男と参加しようってんだからさ」

「それって、まるで千風が俺の事を、恋愛対象として見てるみたいな言い方じゃん」

「まぁ、恋愛対象じゃなくて、単に保護者気分なだけなのかもしれないけど、あいつが伴内の事を気に入ってるのは、確実だと思うぜ」

(千風が俺の事を気に入ってる……ねぇ)

 恋愛対象として見られているのかどうかはともかく、魅力的な異性である千風に気に入られているのだとしたら、それは伴内にとって、素直に嬉しい事だった。炎天下のアーケードの上、伴内は上機嫌で風車を飾る作業を続ける。

 アーケードの前の大通りを、路面電車がガタガタと音を立てて走って行く。路面電車の側面には大きな風車が飾られていて、風祭りまであと五日と書かれた、薬屋のビルボードが設置されている。

 風祭りが近付く猫街は、妙に浮ついている。若い衆にとっての風集めの意味を知った伴内の心も、猫街同様に浮つき始めていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ