162 風をあつめて/何時もより、妙に浮ついている猫街
街が何時もより、妙に浮ついているように感じるのは、夏祭りが近いからなのだろうなと、猫街市場を覆うアーケードの上から、大通りを行き交う人々を眺めつつ、伴内は思う。伴内は何でも屋の仕事として、アーケードの上を風車で飾りつける仕事を請け負ったので、太陽が頂点に近付きつつある現在、アーチ状のアーケードの上にいるのだ。
夏祭りとは、八月十五日に行われる猫街の夏祭り……風祭りの事である。風祭りの時期、猫街では風車を至る所に飾る風習があるので、風祭りの時期は例年、猫街は色とりどりの風車だらけになる。
一般家庭などは家族総出で、家を風車で飾るのだが、業者の建物や公共の大型建築物などは、業者や猫街役場が臨時のアルバイトを雇って、風車で飾りつける事が多い。何でも屋を営んでいる伴内も、猫街市場の商店会から、猫街市場通りの上を覆うアーケードの飾りつけを、何でも屋として請け負ったのである。
日除けの麦藁帽子を被り、ジーンズの短パンに青のタンクトップという、まるで虫取りに出かける小学生のような出で立ちで、アーケードの上に立って、大通りを見下ろしている伴内の手には、風車と風車を固定する為の紐が握られているのだが、手は止まっている。伴内は暫しの間、大通りを行き交う人々を、眺め続けてしまっているのだ。
「伴内、さぼってんじゃねーよっ!」
背後から、伴内を叱責する声がする。伴内が振り返ると、風車を手にしているドドンパがいた。帽子代わりに頭にタオルを巻き、上半身は裸で下半身はバミューダパンツという格好のドドンパは、伴内を睨んでいる。
暇で金欠だったドドンパは、伴内にバイトとして雇われ、一緒にアーケード上を風車で飾り付ける仕事をしているのである。今回の仕事は、伴内一人では大変だったので、暇で金が無い友人を二人、伴内がバイトとして雇い、一緒に働いているのだ。
「悪い悪い、高い所から下で動き回ってる人達見てたら、ぼーっとしちまった」
伴内は慌てて、風車を飾り付ける作業に戻る。アーケードの周囲にある金属製の骨組みに、風車の柄をあてて、紐で縛りつけて固定するのだ。
「あ、それ何となく分る。アリンコの巣とか見てると、ついぼーっと眺めちゃうのと同じだよね」
五メートル程離れた所で、アーケードの骨組みに風車を縛りつけていたペンチが、伴内に話しかけてくる。空鯨から墜落したのを助けられて以降、恩義を感じたのか伴内に懐いたペンチも、暇で金欠だった為、伴内に一時的に雇われて、今回の仕事に参加していた。
ペンチは赤いタンクトップに赤の短パンという、肌の露出が多い格好をしている。しかも、割りと豊かな胸をしているのに、ブラジャーもつけていないので、ペンチがしゃがんで前屈みになったりすると、伴内は目のやり場に困ってしまう。