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160 あしたてんきになあれ/むささび屋と猫目堂のラムネ

「おっちゃん、ラムネ二本!」

 伴内はレジすら無い店の奥で、扇風機の風に当たりながら、タブロイド版の新聞を読んでいる店の主人に、声をかける。

「伴内じゃねえか! もう猫街に戻ってたのか? 今朝の新聞には、まだ戻って無いって書いてあったぜ!」

 丸眼鏡をかけた、初老の駄菓子屋の主人は、新聞を畳んで立ち上がりながら、伴内の声に応える。この駄菓子屋は猫又学園への通学路途中にあるので、頻繁に立ち寄っている伴内は、主人と顔見知りなのだ。

「ついさっき……三時間前に、戻ってきたばっかだよ」

 夏呼びに成功した伴内は、すぐに猫街へ戻る事にした。まず、千風をレジャーシートに載せて引き摺り、猫じゃらしの草原を超えた伴内は、催眠ガスの効果が切れて、千風が目覚めるのを待った。そして、催眠ガスの効果が切れて目覚めた千風に、猫じゃらしを見ないように気をつけさせながら、千風に抱き抱えられて冬の壁を越えた。

 冬の森を渡って冬の川に辿り着いたものの、ゴムボートが壊れていたので、仕方なく伴内と千風は、冬の森の木を使って筏を作り、冬の川を渡った。だが、筏を作るのに手間取ったせいで、また冬の森の中で野営する羽目になり……といった感じのハードな行程を乗り越え、何とか伴内と千風が猫街に戻って来たのは、三時間前の七月七日の午前十一時半だったのである。

「戻って来たばっかりだってのに、こんなとこで何やってんだ?」

 小銭を受け取りつつ、ラムネの壜を二本手渡しながら、主人は伴内に尋ねる。

「猫街議会まで、褒賞を受け取りに行くんだ。午後二時までに来てくれって、さっき猫街議会から連絡が入ったんでね」

 そう言いながら、伴内はラムネを一本、千風に手渡す。

「そりゃ、随分と急な話だな」

 主人の言葉に頷きながら、伴内はラムネ壜の口にあるビー玉を、壜の中に押し込む。ぷしゅっという音を立て、炭酸の泡が壜の口から噴出す。

 こぼれる泡すら勿体無いとばかりに、伴内はラムネの壜に口をつけると、喉を鳴らして、透明な液体を飲み始める。甘く冷たく……少しばかり口内を炭酸で刺激するラムネが、口内と喉を潤して行く。

 千風もラムネ壜のビー玉を中に押し込み、ラムネを美味しそうというよりは、気持ち良さそうに飲み始める。

「ぼうけんかでなんでもやのお兄さんと、たんていのお姉さん!」

 突如、伴内は聞き覚えのある声を耳にして、後ろを振り返る。すると、駄菓子屋の外で、嬉しそうな顔をしているリーとレイの姿が、伴内の目に映る。

 声をかけて来たのは、リーの方だった。

「何だ、お前らか。何でこんなとこいるんだ?」

「ラムネを飲みに来たの!」

 レイとリーは口を揃えて、伴内の問いに答える。そして、兄妹はペコリと、伴内と千風に頭を下げる。

「お兄さんとお姉さんのおかげで、ボクたちのおうち、だいじょうぶだったんだよ!」

 嬉しそうに、家が無事だった事を報告するリーに続き、レイが口を開く。

「ありがとう、ぼうけんかでなんでもやのお兄さんと、たんていのお姉さん!」

「いいよ、礼なんて。ちゃんと金を貰った仕事なんだからさ」

 伴内は、リーとレイを制止する言葉を口にする。子供に何度も頭を下げられる事が、伴内は少し恥ずかしかったのだ。

 そんな伴内の姿を、千風はラムネの壜の口を舐めながら、微笑ましげに見詰めている。



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