159 あしたてんきになあれ/総天然色を取り戻した街並で
強い陽射しに焼かれたアスファルトの上を、陽炎が揺らめいている。昨日の昼まで、モノクロ映画のような色合いの梅雨景色だった街並は、訪れた夏により、総天然色を取り戻している。
気温は三十度を超えているだろう、昼下がりの猫街の大通りを、伴内は千風と共に歩いている。伴内と千風の足元から伸びている影は、夏の陽射しのせいで、黒が濃い。
「いきなり暑くなるんだもん、堪らないよな」
白いTシャツに、膝の部分でカットしたジーンズという、夏向けの格好の伴内は、汗を噴出しながら、右隣を歩く千風に話しかける。
「梅雨の気温に慣れてたのに、いきなり真夏だもんね」
一陣の風が吹きぬけ、大通りの各所に立てられた、七夕用の笹を揺らす。風に肌を洗われ、伴内と千風は暫しの間、涼しい気分を味わう。
「猫街は風が集まる街だから、風が吹いてるおかげで、何とか耐えられるかな」
「前にも、そんな事言ってたね。猫街には風が集まるみたいな事……」
伴内は猫街に来た直後、千風が同じ様な話をしていたのを思い出す。
「常に色々な所から風が吹いて来て、空気が淀む事が無い街なんだ、猫街は……」
千風は吹き抜ける微風を、気持ち良さそうに身に浴びながら、話を続ける。
「そんな街だから、風祭りみたいな祭りがあるんだよね」
「風祭り?」
知らない言葉なので、伴内は千風に意味を問うてみる。
「猫街の夏祭りなんだ。風祭りでは風集めっていう面白いイベントがあるんだけど、良かったら、一緒に風集めに参加しない?」
「――する、喜んで」
断る理由が無いどころか、伴内にとっては嬉しい誘いであった。伴内は喜んで、千風の誘いを受ける。
再び、風が伴内と千風の周りを吹き抜けて行く。風は駄菓子屋の店頭にぶら下がっている風鈴を揺らし、涼やかな音を奏でる。
伴内は風鈴の音に誘われ、右斜め前にある駄菓子屋に目をやる。ムササビが滑空するイラストが目印の駄菓子屋……むささび屋の店頭には、大きな氷が浮かぶ水槽があり、水槽の中には、深い海のような色合いの、ラムネの壜が並んでいる。
猫の目のような模様が入ったビー玉が、栓の代わりに使われている猫目堂のラムネの壜が、伴内の目に映る。喉が渇き切った伴内は、ラムネに引き寄せられるように、駄菓子屋に向かって歩いて行く。