153 あしたてんきになあれ/これが、シツナヒコか……
催眠ガスを吸った以上、千風は六時間、目を覚まさない。どうするべきか、伴内は迷う。
(ここで六時間も足止めされたら、下手すれば猫乃尾川が氾濫して、レイとリーの家が流されるかもしれない。だからといって、千風を運んで先に進む力は、俺には無い……)
千風は伴内より長身で、太ってはいないが筋肉質なので体重も重い。千風を背負って、この先数キロ続く行程を進むのは、伴内には不可能だ。
この場に千風を残していこうかとも考えたのだが、危険な敵がいない保証は無いので、その選択肢を伴内は破棄する。
(背負うのは無理だが、引き摺っていくなら、何とかなるかな)
伴内はリュックの中から、レジャーマットを取り出すと、その上に千風を仰向けに寝かせる。そして、千風を載せたレジャーマットの端を持つと、草原の上を歩き始める。
雪原を犬ぞりを曳いて進むエスキモー犬のように、伴内は草原をレジャーマットのそりを曳いて進む。移動速度こそ速くは無いが、確実に目的地に近付いて行く。
そして、心地よい風を浴びながら、一時間程重たいレジャーシートを曳いて進んだ伴内の前に、奇妙な人工建築物が姿を現す。直径二百メートル程の真っ白な半球状のドームが、伴内の目の前に姿を現したのだ。
「これが、シツナヒコか……」
伴内は地図を取り出し、ドームの位置を確認する。シツナヒコは白い半球状のドーム型をしていると、白玉も話していたので、目の前に現れたドームがシツナヒコである事は、確実だろうと伴内は思う。
「午前十時二十分か……」
防水の腕時計で現在時刻を確認しながら、伴内はシツナヒコのドームに歩み寄る。白玉に聞いていた、ドームへの入り口を探す為にである。
ドームの周囲を歩き回った伴内は、入り口らしき円形のハッチを見つけ出す。
「暗証番号を入力するコントロールパネルって、これか……」
白玉から伴内は、ハッチの右側に暗証番号を打ち込む為の、小型のコントロールパネルがあるという話を聞いていた。聞いていた話の通り、ハッチの右側には、タッチパネル型のモニター兼用の入力装置があった。
伴内はタッチパネルを操作し、白玉から教わった暗証番号……一九七一一一二〇を入力する。すると、モニターが何度か明滅してから、ハッチが上にスライドし始める。暗証番号は正しかったので、ハッチが開いたのだ。