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149 あしたてんきになあれ/あしたてんきになあれ……

 真夜中の猫街では、相変わらず土砂降りの雨が降り続いている。猫乃尾川流域や、他の水害を受けそうな地区から避難して来た者達が、不安な夜を過ごしている猫街体育館の中も、屋根を打つ雨音が響いている。

 猫街体育館は、猫街総合運動場という公共施設の一部であり、普段は猫街の住人達がスポーツなどに興じる為に利用されている。しかし、果無梅雨により猫街各所での水害が発生する恐れが高まった現在は、避難所として使われているのだ。

 猫乃尾川流域から避難して来たレイとリーも、両親と共に体育館の床に布団を並べている。だが、雨音が五月蝿い上に、自分達の家の状況や、これから自分達の生活がどうなるのかなど、様々な事柄に対する不安感のせいで、レイとリーは寝付けずにいた。

 一つの布団に並んで寝転がりながら、レイとリーは近くにある窓を眺めている。窓からは光が射し込んで来ている。窓の外……体育館の近くに、外灯が設置してあるのだ。

 外灯の光に照らされ、窓枠の辺りにぶら下がっている、二十個程の照る照る坊主の姿が、浮かび上がっている。リーやレイなどの体育館に避難して来た子供達が、眠る前に雨が止む事を願いながら、作って吊るした照る照る坊主である。

「あしたてんきになあれ……」

 照る照る坊主を眺めながら、レイが祈るように呟く。

「てんきになるよ。そらくじらに行った、ぼうけんかで……なんでもやのお兄さんが、夏をよびに行ってるんだから」

 傍らで寝ている妹の髪を撫でながら、リーは続ける。

「風あつめで、なんどもかざぐるまを光らせている、たんていのお姉さんもいっしょなんだって。だから、だいじょうぶだよ……」

 たんていのお姉さんとは千風の事であり、風あつめ……風集めとは、猫街の代表的な祭である風祭りで行われる、競技染みた祭事である。猫街住人の多くが参加する祭事……風集めで、千風は過去に何度か、風集めに成功しているのだ。

 猫街王子と呼ばれる千風は、猫街では有名人であり、リーとレイも千風の名前や顔を、知っている。無論、直接の知り合いでは無いのだが、千風が風集めに成功した事などは、リーやレイも街の話題として、耳にした事があるのである。

「そうだね、きっとだいじょうぶだよね……」

 自分に言い聞かせるように、レイは呟く。レイの目線の先……窓の外では、小さなパーカッションを連打するかのような音を立てながら、土砂降りの雨が降り続けている。

 体育館の時計は、十一時五十五分を示している。あと五分で明日になるのだが、まだ雨が止む気配は無い。



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