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148 あしたてんきになあれ/抱き合う二人

(――俺、千風に抱き締められてるんだ)

 猫人であっても、魅力的な異性だと認識している千風に、裸で抱き締められているのに気付き、伴内は急激に恥ずかしくなるのと同時に、嬉しくなる。恥ずかしさで全身に血が勢い良く巡り始め、身体が熱くなり始める。

(あれ? 抱き締められている……身体が密着してるって事は、ひょっとしたら人間の肌みたいな感触って?)

 伴内は夢の中で、黒吉の毛を撫でていた感触が、人間の滑らかな肌を触る感触に変化したのを思い出す。黒吉の毛を撫でていたのは、意識を失っていた間に見た夢だという事は伴内にも分るのだが、意識が戻る……夢から覚める直前から感じ始めた、滑らかな人肌に触れた感触は、夢では無いどころか、今も伴内は感じ続けているのだ。

 それが何の感触だか確認する為に、伴内は手を動かして、滑らかな感触のモノを掴んでみる。滑らかではあるが、じっとりと温かな水分で湿っている、汗に濡れた人肌だとしか思えないモノを……。

 同じ滑らかな表面をしていても、右手が掴んだモノは堅く、左手は柔らかなモノを掴んだ事が、伝わって来た感触から伴内には分る。千風が一糸纏わぬ姿で、自分を抱き締めている事も。

「あ……」

 突如、千風が漏らした艶かしい声を耳にしながら、伴内は自分の手の位置を確認してみる。右手が千風の筋肉質の脇腹に伸びていて、左手が千風の右胸の膨らみに伸びているのに、伴内は気付く。

「ご、ごめん! あの、千風が裸だと思ってなかったし、胸とか触るつもりじゃなくて、その……」

 伴内は即座に両手を引っ込めると、焦ったように千風に謝罪する。

「いいよ、謝らなくても。わざとじゃないのは、分ってるから」

 頬を染めている千風は、優しい口調で伴内の行為を許す。

「――でも、何で裸なの?」

「俺の服も伴内の服も濡れちゃってたから、こうしたんだけど……嫌?」

 頭を横に振り、伴内は嫌ではないという意思を伝える。そして、千風の言葉から、千風だけで無く自分も裸なのだと気付き、恥ずかしさが頂点に達する。

(裸で抱き合ってるんだ、俺と千風……。それに、胸まで触っちゃった……)

 恥ずかしさを感じるのと同時に、恋人同士でも無いのに、裸で抱き合ったりしていいのかなという考えが頭に浮かんできて、伴内は罪悪感を覚え始める。

「あの……いいのかな? 裸で、こんな事して……」

 頬を染めて、消え入りそうな声で尋ねる伴内の身体を、千風は優しく抱き締める。

「いいんだよ。俺も伴内も、身体を温めないと駄目なんだから」

 伴内にだけでなく、自分にも言い聞かせているかのように、千風は続ける。

「服だって、まだ乾いて無いんだし……。もう暫く、こうしていないと駄目」

「――そうだね」

 千風の言葉に同意しながら、伴内は心の中で喝采する。千風と暫くの間、抱き合っていられる事が、素直に嬉しかったのだ。

(まぁ、喜んでる場合じゃ無いんだろうけどさ)

 遭難しているも同然の状況だというのに、魅力的だと感じている相手と抱き合えるのを、嬉しいと感じてしまう自分を、伴内は不真面目だなと自嘲する。自分がそんな風に、今の状況を嬉しく感じてしまっていると知ったら、千風は怒るだろうなと。伴内は思う。

 千風も今の状況を嬉しく思っている事など、思いにもよらないのだ……今の伴内には。



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