146 あしたてんきになあれ/別に、いやらしい事してるんじゃなくて
「――非常時なんだから、仕方が無いんだよね」
異性の服を脱がす事に、少し恥ずかしさを感じたのか、誰が聞いている訳でも無いのに言い訳の言葉を口にしながら、千風は伴内の着衣を脱がし始める。濡れた着衣は肌に貼り付いて脱がし難いし、そもそも他人の着衣を脱がした経験自体が、千風には無かったので、手間取りながらではあるが、何とか千風は伴内の着衣を脱がし終える。
伴内の着衣を焚き火の周囲に広げてから、千風は着衣を脱ぎ捨て。引き締まった裸身を焚き火に晒す。脱ぎ捨てた着衣を、伴内の着衣の周囲に並べる。無論、乾かす為に。
焚き火の前に、裸で仰向けに寝かせておいた伴内の傍らに座り込み、千風は伴内の状態を確認する。焚き火に照らされて、肌の色は少しだけ赤みを取り戻してはいるが、身体の振るえは止まらず、唇は蒼ざめたままである。
「焚き火だけじゃ、足りないか……」
どうすれば伴内の身体を、より温める事が出来るのか、千風は自問する。そして、千風の頭の中に、ある考えが浮かんでくる。娯楽小説などで、たまに出て来る温め方なのだが、千風自身は経験が無い方法であった。
(――あれ、試してみようかな?)
伴内の裸身を見詰めながら、千風は心の中で呟き続ける。
(恥ずかしいけど、伴内相手なら……いいや)
頬を染めながら、千風は伴内の隣りに横たわる。そして、躊躇い勝ちに伴内の身体に両手を伸ばし、両脚を絡めると、包み込むように伴内を抱き締め始める。千風の頭に思い浮かんだ方法とは、いわゆる人肌で相手の身体を温める方法だったのだ。
(別に、いやらしい事してるんじゃなくて、あくまで伴内を助ける為に、やってる事なんだから!)
自分に言い訳をしながら、千風は自分の身体が、次第に熱くなり始めているのを意識する。焚き火のせいではない。生まれて初めて、裸の異性を裸で抱き締めているが故に感じる、恥ずかしさ……しかも、その相手が伴内である事が、どんどん千風の身体を熱くしているのである。
(身体が熱くなれば、伴内の身体を温められるんだから、熱くなるのは……別に悪くは無いか)
伴内が助かるように願いながら、千風は伴内を抱き締め続ける。自分の身体の熱さが、伴内に伝わる事を信じながら。