137 あしたてんきになあれ/悪魔の草って、ただの猫じゃらしの事なの?
「ひょっとして……悪魔の草って、ただの猫じゃらしの事なの? 猫じゃらしなら、そりゃ人間の俺には、何の影響も無い訳だけど……」
伴内は、悪魔の草と呼ばれている、ブラシ状の先端部分を持つ草の俗称を口にする。猫じゃらし……正式にはエノコログサという、ブラシのような草は、伴内が生まれ育った時空にも、当たり前のように存在していた。
そして、迷いの森に入ってから、何箇所かで群生しているのを見かけたのだが、特に珍しい草だとも思わず、気にもしていなかった。何故なら、伴内の知る限り、確かに猫は猫じゃらしで遊ぶのが大好きではあるが、疲れ果てるまで遊ぶ程では無かったからだ。
基本、猫は飽きっぽい性質の動物である。猫じゃらしの遊びも、好きな遊びとはいえ、数分で飽きてしまう程度のものというのが、伴内の認識だった為、ドドンパが猫じゃらしを見て、おかしくなる迄は、猫じゃらしが悪魔の草の正体だとは、思いもしなかったのである。
悪魔の草が、猫じゃらしを意味しているのかも知れないと考え始めた伴内の頭に、白玉の話が浮かんで来る。
「ちなみに、猫人はマタタビで正気を失わなくなった代わりに、悪魔の草に対する耐性が、ゼロに近い程に低下したという説もある」
(――マタタビが効かなくなった代わりに、猫だった頃には楽しくじゃれて、数分間遊ぶ程度の効果しか無かった猫じゃらしが、猫人には遊びつかれてぶっ倒れる程の、危険な魅力がある存在になってるって事なのか?)
白玉の話から、伴内は推測して考えをまとめてみる。その考えは、実は的を射ていたのだが、伴内には確かめる術が無い。
「こ、これは……けしからんっ! 何てけしからん姿と動きなんだっ!」
突如、ドドンパとは別の猫の声が、森の中に響き渡る。声の主は、ドドンパに突き飛ばされ、うつ伏せに倒れた茶虎である。
うつ伏せに倒れた茶虎の目の高さは、当然の様に地表に近付き、これまで見ないように気を付けていた高さにあった、悪魔の草の先端を見てしまう。風に揺れる、猫じゃらしの先端部分を。
「あああ、けしからんっ!」
茶虎はドドンパ同様に四つん這いになると、猫じゃらしの周りを飛びまわりながら、両手で猫じゃらしを突いて、遊び始める。まるで仔猫のように。
ドドンパと茶虎は、にゃぁにゃぁと猫のような声を出しながら、大はしゃぎで猫じゃらしにじゃれて、遊び続ける。