135 あしたてんきになあれ/何か妙なもんがある!
森の中は夏の気温である外に比べて、かなり涼しい。日中、陽射しが木々の枝葉に遮られていたせいである。
夏呼びの為に迷いの森に入った面々が、夏どころか梅雨ですら暑苦しい、長袖の着衣に身を包んでいるのは、怪我を避ける為だけでなく、森の中の低い気温に対応する為なのだ。
月明かりの届かない森の中を、伴内達は手にしたライトの光だけを頼りに進んで行く。伴内は足元や前方を照らし、前に進んでいるが、他の猫人達は、目と同じ高さをライトで照らし、腰から下辺りの高さが見えないようにして、前に進んでいる。
「夜にスタートしたのは、正解だったのかも。悪魔の草どころか、草自体が見え難いから」
伴内の右斜め後ろで、千風が呟く。千風や他の猫人は、悪魔の草の影響を受け難い筈の伴内を先頭として、後に続いているのだ。
「でもよ、足元を見ないで進むってのは、ちょっと心許ねぇなあ」
心許ないと言っている割りには、ドドンパの口調は気楽である。
「とりあえず、辺りには普通の草しか無いみたいだから、木の近くを歩く時だけ、木の根っこに気をつけていれば、今のところは大丈夫だよ」
伴内は誰にという訳でも無く、皆に声をかける。森の中に五百メートル程入った伴内達の周囲は、五メートルから十メートル程の間合いを空けて、木々が立ち並んでいて、地表は草や苔に覆われている。
(今の所は順調……ん?)
突如、伴内の視覚が、夜の森の中には相応しく無い色を捉える。
「何か妙なもんがある! ちょっと止まって!」
制止を命じる伴内の声を聞いて、一行の空気が凍りつく。猫人達は「妙なもん」と聞いて、悪魔の草かもしれないと思い、緊張と恐怖に身を震わせる。
だが、伴内が見た妙なもんとは悪魔の草ではなく、草の絨毯の上に倒れている、二つの猫人らしき人影だった。十メートル程の間合いを空けて、二人の猫人達が草の絨毯の上に、仰向けで倒れていたのである。
「猫人が……二人、倒れてる!」
倒れている猫人達の数を数えつつ、伴内は一番近くに倒れている、赤いジーンズを穿き、長袖のデニムシャツを着たの女性の猫人に駆け寄る。その猫人に、伴内は見覚えがあった。