132 あしたてんきになあれ/そういや、伴内は乗った事あるんだっけか、ハジキとデートした時に
「――何だ、賑やかだと思ったら、チャトラじゃねえか。何でおめーみたいな冒険と無縁のお坊ちゃんが、迷いの森になんか来てるんだよ?」
昴九十式の方から歩いて来た、黄色いツナギに黄色いリュックという出で立ちのドドンパが、茶虎に問いかける。
「ドドンパか。何だ……貴様も一緒という事は、黒貴さんは伴内と二人っきりで、夏を呼びに行く訳では無かったんだな」
茶虎は安堵したかのように呟きながら、胸を撫で下ろす。
「茶虎といい紅髑髏団の連中といい、意外と夏呼びに来てる連中が多いじゃねーの。やっぱ自動封筒みたいな珍しいお宝が、褒賞になったせいかなぁ」
ドドンパの言葉を聞いて、伴内達は驚く。
「紅髑髏団の連中も来てるのか?」
伴内の問いに頷きつつ、ドドンパは五十メートル程離れた場所に停車している、スポーツカーを指差す。夜なので正確には判別し難いが、月明かりに照らされている、大人の女性のボディラインのような、艶っぽいフォルムのスポーツカーは、血に塗れて滑っているかのように見える。
「あんな悪趣味な血の色のGT乗り回してんのは、猫街じゃハジキくらいなもんだぜ」
ドドンパが血の色と表現した真紅のスポーツカー……アルファ・スパイダーGTには、伴内も見覚えがあった。たまに猫街の街道を、ハジキがペンチなどを連れて、真紅のGTで流している姿を目にしただけでなく、実は乗った事もあったりするのだ。
「――そういや、伴内は乗った事あるんだっけか、ハジキとデートした時に」
ドドンパの言葉を聞いた千風は、衝撃を受けたように尻尾の毛と髪の毛を逆立て、伴内を睨みつける。
「で、デートぉ? ハジキと?」
問い詰めるような千風の口調に、伴内は後ろ暗い事がある訳でも無いのに、狼狽してしまう。
「え? いや、あれは……デートとかじゃなくて、食事を奢って貰った時に、乗っただけの話で……」
「ハジキの車に乗って、食事に行った? そんな話、初めて聞いたけど……」
伴内に詰め寄る千風の表情には、不機嫌さが滲んでいて、口調は少し刺々しい。髪の毛や耳の気……そして尻尾の毛などは、逆立っている。