013 春らんまん/再会
二人がかりの上、埋まっていたのは浅い所だったので、少年と仔猫を掘り出すのに、そんなに時間はかからなかった。少年は怪我をしていたが軽症であり、命に危険があるような状態では無いと、医者でもある白玉は診断する。
そして、掘り出されて土砂の上に、仰向けに寝かせられた少年の顔が、月明かりに照らされて露わになる。その顔を見た千風は、まるで信じられないものでも目にしたかのように、両目を見開くと、焦ったように少年の身体に鼻を近付け、少年の匂いを嗅ぎ始める。
「どうしたね?」
千風の異変を感じ取った白玉は、千風に問いかける。
「間違い無い! この匂いは……」
懐かしい少年の匂いを確認してから、あらためて千風は少年の顔に目をやり、見詰める。歓喜に身を震わせている千風は、目から涙を溢れさせ始めている。
千風の様子を見て、白玉は少年が誰なのかを、大よそ悟る。
「ひょっとして、このはいからさん……あんたが前から言ってた人かい?」
白玉の問いに、千風は頷く。
「もう二度と会えないと思ってた。風集めで何度も願ったから、神様が願いを聞いて、会わせてくれたのかな……」
嬉しげに呟く千風の目線の先で、少年に守られていて無事だった仔猫が、少年に感謝の意を示すかのように、少年の顔を舐める。その三毛の仔猫が赤い首輪をしている事に、千風は気付く。
「俺の後に、猫飼ったんだ……兄貴。しかも、雌を」
少しだけ拗ねたような顔で、千風は呟く。嫉妬の感情が少しだけ、千風の中で湧き上がりはしたものの、再会の喜びに比べれば、それは小さ過ぎる感情であった。
「脳震盪で意識を失っているようだが、身体の方は軽い怪我に打ち身くらいで、大した事は無いようだね」
少年の容態を調べた白玉の言葉を聞いて、千風は安堵する。
「多分、すぐに意識は回復するだろうさ。意識が戻ったら早速、再会を喜び合うがいい」
白玉の言葉に、千風は頷きかけるが、首を横に振る。
「――それは、止めとく。俺はあくまで、猫街住民の黒貴千風として、接する事にする」
「何故だい? せっかく再会出来たのに?」
「猫街に来た以上、兄貴はもう大事な家族や友達と、会えないんだ。兄貴は当然のように、凄く哀しくて……寂しくて、不安な思いをする筈なんだよ、昔の俺みたいに」
千風は仰向けに寝かされている少年の髪を、優しく撫でながら、言葉を続ける。
「そんな兄貴の前で、俺だけ再会した事を喜んで、はしゃげないよ。それに……」
「それに?」
「兄貴が猫神招きされて来たのは、俺のせいかもしれないんだ。俺のせいで、家族と離れ離れになったかもしれないなんて事を兄貴に知られたら、俺……兄貴に嫌われちまう」
「――この子が猫神招きされたのは、あんたが風集めで願ったせいだとでも、思っているのかい? だったら、それは考え過ぎってもんだよ。あれはあくまで、祭りのイベントで、神様が願いを叶えてくれるだなんていうのは、根拠の無い言い伝えに過ぎないんだから」
「そうかもしれないけど、やっぱり兄貴には知られたく無いんだ、俺が風祭りで願った、身勝手な願い事を……。だから、再会出来た喜びは、俺の中に仕舞っておいて……」
「猫街の住人……探偵の黒貴千風として、この少年に接する訳か。でも、彼の方が気付きはしないかねぇ?」
「気付く訳が無いよ。あの頃の俺と今の俺は、見た目が余りにも違い過ぎるから。それに……兄貴は俺について、大きな勘違いをしていたし、気付く訳が無い」
「ああ、そういえば……そうだったね」
その勘違いが何であるのか、千風から聞いて知っていた白玉は、言葉を続ける。
「でも、気付いて欲しいんじゃないのかい?」
「さぁ……どうだろ」
首を傾げ、千風は口を濁す。
「そう言えば、あんたが自分の事を俺っていうの、その人の影響だったんだってね」
千風は白玉の言葉に、頷く。嬉しそうな……昔を懐かしむような目で、その少年……大瀧伴内の事を見詰めながら。




