129 あしたてんきになあれ/夏の空気
土砂降りの雨の中を、二台の小型自動車が走り続ける。白玉の白い昴百式とドドンパの黄色い昴九十式が、雨水を撥ねながら、猫街郊外の舗装されて無い道を進んで行く。
目的地である迷いの森は、猫街の北東……五十キロ程の所にある。普段の昴シリーズなら、巡航速度ですら二十分もかからずに辿り着ける距離なのだが、雨の中……しかも舗装されていない夜道を、ライトを照らしながら進んでいるので、午後七時過ぎに白玉研究所を後にした一行は、午後七時半を過ぎても、目的地には辿り着かない。
「――雨が上がったから、そろそろ着くよ」
運転席の白玉がワイパーを止めながら、雨が上がった事を伴内達に伝える。白玉の言葉通り、窓の外は既に、雨が上がっている。
果無梅雨が終わり、雨が止んだ訳では無い。果無梅雨は、猫街を中心とした半径四十キロ程の範囲にだけ発生する異常気象である為、猫街から五十キロ離れた場所にある迷いの森及び近辺の地域は、果無梅雨による雨は降り続いていないのだ。
伴内は、車の窓を開けてみる。すると、暑く湿った空気が、車内に流れ込んで来る。
「夏の空気……」
肌に触れた空気から、伴内は夏を感じ取る。迷いの森の周囲は、既に梅雨が明けて夏が訪れているのだ。車の周りに夏の空気が満ちている事は、伴内達が既に迷いの森に近付いているのを示している。
程無く、進み続けた二台の昴シリーズの前に、幅も奥行きも何処まであるのか分らない程に広大な、黒い夜の森が姿を現し始める。森の中には、山のように地形が高くなっている場所がある。かなり高低差がある森なのだ。
伴内達は迷いの森の前に、辿り着いたのである。