120 あしたてんきになあれ/広まっている誤解
避難作業を続ける家族達から、警官は目線を伴内に移す。警官は何かに気付いたかのように、両手を打つ。
「――君の顔、何処かで見た気がしてたんだが……空鯨に行って、空いろのくれよんを取って来た、はいからさんの冒険家……大瀧伴内君か!」
「あ、いや……冒険家じゃなくて、何でも屋なんですけど、俺」
伴内がドドンパと共に空鯨に行き、紅髑髏団と争奪戦を繰り広げながら、空いろのくれよんを取って来た一連のエピソードは、猫街新聞によって、猫街中にニュースとして知れ渡っていた。空鯨から帰還して、空いろのくれよんを伴内達が手に入れた事を知った猫街新聞の記者達は、すぐにドドンパや伴内の元に取材に訪れたのだ。
ドドンパは記者達に、かなり脚色した形での冒険談を語ったので、結果として伴内は、ドドンパの仲間の冒険家という形で、猫街中に報道されてしまったのだ。無論、即座に伴内は自分は高校生兼何でも屋なのだと、記事を修正して貰ったのだが、いまだに伴内の事を冒険家だと、勘違いしている猫街住人は多いのだ。
もっとも、空鯨に行った事が記事になったお陰で、伴内自身の猫街での知名度が高まり、パチンコの名手だと知れ渡ったのは、何でも屋を開業した伴内には、有り難い事だった。知名度が仕事の依頼の増加に、直結したからである。
持ち前の器用さと運動神経の良さ、頭の回転の速さに加え、白玉から借りる様々な道具などを駆使して、伴内は来た依頼を着実にこなし、何でも屋としての評判も上げつつある。それでも、メディアを通して一度広まってしまった、冒険家という認識は、簡単には打ち消せないのだ。
実は、ドドンパが伴内の事を、仲間の冒険家だと吹聴して回っているのが、伴内が冒険家だという噂が一向に消えない、主な原因なのかもしれないのだが。
「あー、そうだった! 冒険家は趣味としてやってるだけで、本業は何でも屋だったね、猫街新聞で読んだよ」
「いや、そもそも冒険の方は、趣味……」
趣味ですら無いと言おうとした伴内は、話を途中で打ち切る。突如、ワイシャツの背中の部分を誰かに引っ張られたので、引っ張った相手が誰であるかを確認しようと、後ろを振り向いたからである。