117 あしたてんきになあれ/果無梅雨の定義
猫又学園の高等部校舎は、伴内が生まれ育った磯街の学校の校舎に比べ、かなり古臭い木造の校舎である。四月から他の新入生と共に、猫又学園の高等部に通い始めた伴内は、その古臭い校舎の一階にある一年鯖組の教室で、帰りのホームルームを受けている最中だった。
「えーっと……今日の午前、猫街議会が今年の梅雨を、正式に果無梅雨だと認定しました」
教壇に立つ、水色のワンピースに身を包んだ二十代前半の女教師が、二十人程の生徒達に、連絡事項を伝え続ける。男子生徒達は半袖のワイシャツに黒のパンツ、女生徒達は半袖のセーラー服に黒のスカートという出で立ちである。
「猫街議会は果無梅雨を終わらせる、夏呼びを募っています。夏呼びに成功した者には、三百万円に加えて、貴重な人類の遺産である自動封筒が、褒賞として贈られるそうです」
女教師は教室を見回して、続ける。
「まぁ、高校生がやる事じゃないけどね、夏呼びは」
「三ツ矢先生! 何なんですか、その果無梅雨とか夏呼びってのは?」
教壇の真ん前の席に座っている制服姿の伴内が、女教師……三ツ矢ラムネに問いかける。
「そっか、伴内は猫街に来たばかりだから、知らないのか」
ラムネの言葉を聞いた生徒達の中から、次々と俺も知らない……私も知らないと主張する生徒達が現れる。伴内だけでなく、半数くらいの生徒達が、果無梅雨や夏呼びについて、知らなかったのだ。
「結構知らない奴が多いな……十二年振りだから、当たり前なのかも知れないね。だったらホームルームが長引かない程度に、簡単に解説しておこう」
生徒達の間から、パチパチと拍手が上がる。
「果無梅雨っていうのは、だいたい十年に一度くらいのサイクルで訪れる。終わらない梅雨の事なんだよ」
「終わらない梅雨?」
驚いて聞き返す伴内に、ラムネは頷いて続ける。
「たいていの梅雨は、途中で晴れ間があるし、七月に入る前に明けるんだ。でも、今年の梅雨は晴れ間が一切無かったし、七月に入っても明けないだろう?」
ラムネの問いに、生徒達は頷く。
「今年みたいな晴れ間が無く、七月に入っても明けない梅雨が、果無梅雨だと定義されているのさ」
果無梅雨の定義についての簡単な説明を、ラムネは終える。