116 あしたてんきになあれ/ひょっとしたら、妬いているのかい?
「悪かったね、鍵の隠し場所は変えたんだが、またミケに見付かってしまったのか」
白玉は頭を掻きながら、対面に座っている千風に謝罪する。場所は白玉研究所の事務室、時刻はミケが伴内のベッドに潜り込んだ、七月五日の午後三時頃。
仕事が早めに片付き、白玉研究所に立ち寄った千風は、白玉と茶を飲みつつ、今朝の出来事について話していたのだ。ちなみに、御茶請は塩羊羹である。
「シラタマさんは、防犯意識が少し甘過ぎるところがあるから、気を付けて下さいね。ドドンパといいミケといい、簡単に色々と持ち出され過ぎです!」
「ドドンパはともかく、ミケの場合は猫街に来て猫人になったばかりの、子供なんだ。元々の飼い主に懐きたがるのは、ある程度は仕方が無いよ」
シラタマは、ミケの擁護を続ける。
「ほんの数ヶ月前まで、飼い主の枕元で裸で眠るのも、朝……飼い主である伴内の唇を舐めるのも、猫としては当たり前の事だった訳だし……」
「裸で男の子のベッドに潜り込んで、キスとかするのは、仕方が無いって見逃せるレベルを超えてますっ!」
「――ひょっとしたら、妬いているのかい?」
「妬いてなんかいませんよ、別に……」
誤魔化すように目線を逸らして、千風は窓の外に目をやる。灰色のカーテンのような止まない雨が、千風の目に映る。
「それにしても、今年はやっぱり果無梅雨なんですかね?」
千風の問いに、白玉は頷く。
「議会や長老会の方から、つい先程連絡が入ったばかりだ。十二年振りの果無梅雨だと、午前中の特別議会で正式に認定されたそうだよ」
「――という事は、誰かが夏を呼びに行く訳ですか……」
「そういう事になる。今回は誰が、貧乏くじを引く羽目になるんだろうねぇ」
灰色に染まった窓の外に目をやりながら、白玉は呟いた。