110 空いろのくれよん/千風、おめぇ本当にキツい奴だよなぁ
空鯨より帰還してから七日が過ぎた、四月十日の朝、白玉に呼び出された伴内は千風と共に、朝日に照らされた白玉研究所を訪れた。研究所の前で、木槌を手にしてガレージを修理している最中のドドンパを、伴内と千風は目にする。
空鯨から帰った後、伴内は手に入れた空いろのくれよんをドドンパと山分けにして、それぞれ二つずつの欠片を手に入れた。伴内はドドンパと同行した自分も、バットサンを壊した責任を取ると、ドドンパと共にバットサンを弁償すると申し出たのだが、盗み出したのも着陸に失敗したのもドドンパだから、その必要は無いと、白玉は断ったのだ。
結局、ドドンパは二つの欠片を即座に猫街の資産家に売り飛ばし、一億円近い金を手に入れる事に成功した。だが手に入れた金は、バットサンの弁償とガレージその他の修理代、これまでの白玉への借金の返済などに使われてしまったので、ドドンパの手許には、金が一円も残らなかったのである。
一億円近かった白玉への借金は大幅に減ったのだが、それでも結構な額の借金が残されている。故に、ドドンパは少しでも借金を減らす為に、自分が壊したガレージを、自分で修理し続けているのだ。
ちなみに、伴内は二つの空いろのくれよんの欠片を、二つとも白玉に研究素材として貸し出していた。代わりに、猫神荘の部屋を二部屋、借り受ける条件で。
一つの部屋を住居とし、もう一部屋を開業した何でも屋の事務所として、伴内は使い始めたのだ。昼間は猫又学園の高等部に通いつつ、放課後は頼まれ事なら合法的な範囲内で、何でも引き受ける何でも屋として働き、金を稼ごうと決めたのである。無論、仕事や学校が無い時は、これまで通り、白玉や千風の手伝いも続けるつもりで。
空いろのくれよんを大金に換える事も出来たのだが、この先、何かあった場合に備えて、伴内はそうしなかったのだ。
「よう、伴内! それと千風! 随分と早いけど……何の用だ?」
近付いて来る伴内達に気付いたドドンパは、修理の手を休め、伴内達に声をかける。
「ミケの洗礼が終わるから、洗礼室に来てくれって、さっきシラタマさんから電話があったんだ」
「あー、伯母さんが言ってた、伴内が元の時空で飼ってた仔猫か。後でオイラにも紹介してくれよ」
「あんたは存在自体が、子供の教育に悪いから駄目!」
「――千風、おめぇ本当にキツい奴だよなぁ」
ドドンパと千風のやりとりを聞いて、伴内は楽しげに笑う。