107 空いろのくれよん/誰の飛行機?
「ペーンチッ! 無事だったんだな!」
ハッチが開いたままになっている、空鯨の格納庫の中から発せられた叫び声が、伴内達の耳元に届く。夜空を飛ぶペンチの姿を確認したハジキは、子分の無事を喜び、声を上げたのだ。
「姐さーんっ!」
ペンチも嬉しそうに、格納庫に向かって飛び始める。伴内とドドンパもペンチの後を追い、格納庫に向かおうとする。
直後、プロペラの音とレシプロエンジンの音が、伴内達の耳に届き始める。最初は小さかった音は、次第に大きくなっていく……レシプロ機が夜空を、空鯨に向かって飛んで来ているのだ。
伴内とドドンパだけでなく、ペンチやハジキ達も、飛行機の音がする方向に目をやる。いきなりの乱入者が、何者であるかを見極める為に。
飛行機は、空鯨の右側……格納庫がある辺りに向かって、一直線に飛んで来る。照明に照らされているせいで、明るい格納庫が露出している空鯨の右側は、暗い夜空の中では、矢鱈に目立つ。
それ故、空鯨を目指して飛んでいるだろう飛行機は、外灯に誘われる蛾のように、伴内達がいる辺りに誘われる事になるのだ。程無く、伴内達が確認出来る程の距離まで、飛行機は近付いて来る。
「あれは……バットツーじゃんか!」
ドドンパは驚いたように、飛行機の名を口にする。空鯨に近付いて来た飛行機は、白玉所有の飛行機……バットツーだったのだ。
「バットツーって、シラタマさんがバットサンの前に作った飛行機か! だったら、シラタマさんの関係者が乗っているかも……」
伴内の言葉に、ドドンパは頷く。
「最近は、殆ど千風の専用機になってるんだ、バットツー!」
千風という名前を聞いて、伴内の心が躍る。バットツーに千風が乗っているのかもしれないと知った伴内の心は、バットツーに向く。そして空いろのくれよんの効果で、心が向いた方向に、伴内の身体は飛ぶ。
伴内は、迫り来るバットツーの進行方向を目指して飛んで行く。バットツーの方が速いので、伴内にはバットツーを追いかけて追い着くのは不可能。それ故、バットツーの進路を先読みして、進路上でバットツーを待つ気なのだ。