106 空いろのくれよん/だけど、猫街に帰れなくなったのは痛いな
「――まぁ、金の事は取らぬ狸の何とやら……だけど、猫街に帰れなくなったのは痛いな」
ペンチは、ドドンパに遅れて自分の元に辿り着いた、困ったように頭を掻いている伴内の言葉を聞いて、不思議そうに首を傾げる。
「猫街に帰れないって、何故? バットサンで戻ればいいだけでは?」
「ドドンパが空鯨への着地に失敗して、バットサン壊しちまったんだよ」
「あー成る程、またドドンパの奴、またやったんですか! こいつ下手ですからね、着陸」
納得したかのように頷きながら、ペンチは続ける。
「前にも猫又学園の校庭を、滑走路代わりにして着陸しようとして、間違えて体育館に突っ込んで、ぶっ壊した事とかあるし」
「ありゃあ、その……風だよ風! 風に煽られて流されただけだって!」
過去の失敗を持ち出されたドドンパは、気まずそうな顔で、そう言い訳をする。
「まぁ、そんな訳でバットサンが使えないから、俺達は空いろのくれよん使って、猫街まで飛んで戻るつもりだったんだが……」
伴内は残された空いろのくれよんの欠片を、ペンチに見せる。
「これだけじゃ、帰るの無理なんだよ。どう考えても」
「そうでしたか……だったら、あっしがハジキの姐さんに頼んで、旦那とドドンパを紅鴎に乗せて帰って貰えるように、頼んでみます! 紅鴎なら、四人くらいは無理すれば乗れますから!」
「そいつは助かる、有難う!」
旦那という呼ばれ方には、少し違和感を感じたのだが、些細な事を気にしても仕方が無いと思い、伴内はペンチに礼を言う。
「いえ、そんな……命を助けて頂いたお礼です、気になさらないで下さいっ!」
上空を飛ぶ空鯨を目指して飛び続けながら、三人は会話を続ける。空鯨の移動速度は、空いろのくれよんで得られる飛行能力の最高速度の半分以下なので、三人は数分で、空鯨の近くまで辿り着いてしまう。
青白く輝く三つの光が、空鯨の右側を飛び始める。伴内達が空鯨と並んで、飛び始めたのだ。