105 空いろのくれよん/おめーのせいで、オイラ達は大損だっ!
「あぶねーところだったな! あと少しで、海に叩き付けられて死んでたぜ!」
眼下に広がる、夜空を映した黒い海を眺めながら、ドドンパは続ける。
「おめーのお陰で命拾いした、ありがとなっ! キンタマが潰れるかと思ったけどよ!」
「お前だったら、潰れたって治るんじゃないのか?」
「治るかもしれねーけど、凄く痛ぇのよ! オイラの身体は、確かに頑丈だし傷とかも治り易いけど、痛さは他の猫人と変わらないんだって!」
夜空を舞い上がりながら、二人は軽口を叩き合う。軽口を叩ける程度に、伴内は死に近付き過ぎたショックから、回復している。
二人共、次第に飛ぶのに慣れ始めているのだろう。飛び始めた頃よりは大分、飛行が安定している。
「――それにしても、ずいぶんと景気良く空いろのくれよんの弾を撃ってたけど、空いろのくれよん……まだ残ってる?」
伴内は右掌に載せた、四つの欠片をドドンパに見せる。
「これだけ。一本と三分の一だけしか残ってない」
「――これだけじゃ、猫街には戻れないよなぁ。まぁ、死ななかっただけ、マシなんだろうけど……」
ドドンパは、がっくりと肩を落す。
「ガンマン……じゃなくてパチンコの旦那、御無事ですか?」
突如、上空からペンチの声が響いて来る。伴内とドドンパが夜空を見上げると、降下して来る青白い光に包まれた、ペンチの姿が目に映る。
自分を助けてくれた伴内の身を案じ、ペンチは降下して来たのだ。自分と同じように、青白い光りを放つ飛行物体を目指して。
少しとはいえ、伴内やドドンパより先に飛び始めたせいなのか、ペンチの飛行は伴内とドドンパより安定していた。
「ペンチ! おめーのせいで、オイラ達は大損だっ!」
伴内がペンチに返事を返す前に、ドドンパが激怒しながら、ペンチに向かって飛んで行く。
「おめーが吹っ飛ばされたせいで、オイラまで巻き添え食らって落っこちて、伴内が助けに来なけりゃ、死んでたんだぞ!」
怒鳴り続けながら、ドドンパはペンチの元に辿り着く。
「しかも、おめーを助ける為に、空いろのくれよんを何本分使っちまったと思ってるんだよ? おめーのせいで数億円分の空いろのくれよんが、吹っ飛んじまったんだからな!」
「ご、ごめんなさーいっ!」
ドドンパの勢いに気圧され、ペンチはしどろもどろになりながら、頭を下げる。