103 空いろのくれよん/あと一ケース、これが最後か……
「でかした、ドドンパ! そのまま落ち続けてくれよ!」
伴内は四つ目のケースをリュックから取り出し、空いろのくれよんをパチンコの弾に変える。そして、ドドンパに狙いを定めると、次々と空いろのくれよんの弾を放ち始める。
青白い光の尾を曳き、弾は次々とドドンパに向かって飛んで行く。しかし、何れの弾もドドンパの左脇を掠めて、虚空へと消える。
「もーちょっと右なのよーっ!」
ドドンパから見れば右であるが、伴内から見れば左である。伴内はリュックから五つ目のケースを取り出して、六発の空いろのくれよん製の弾を作り上げる。
そして、先程よりは左側を狙って、伴内は次々と弾を放つが、全てドドンパの周囲を掠めるだけで、当たらない。
伴内は焦りながら、六つ目のケースに収納されていた空いろのくれよんを弾に変えて、ドドンパを狙撃し続ける。しかし、矢張り弾はドドンパに当たる事は無かった。
「早く当ててくれよ! もう、石林群島の島が見えるくらいの高さまで、落っこちて来ちまってるんだから!」
情け無い……怯えた感じのドドンパの声が、伴内の耳に届く。ドドンパは海を背にして夜空を見上げているが、ドドンパは夜空を背にして海を見下ろしている分、どの辺りまで自分達が落下しているかという事に関しては、伴内より敏感なのだ。
「――あと一ケース、これが最後か……」
伴内は焦りの表情を浮かべながら、七つ目のケースをリュックから取り出し、二本の空いろのくれよんを、六つの欠片に変える。そして一つの欠片をパチンコに込めると、ドドンパを狙い、ゴムを引き伸ばす。
(もう、これだけしか無いんだ! 頼むから当たってくれ!)
祈りを込めながら、これまで以上に念入りに狙いを定め、伴内はドドンパを狙い撃つ。一際青白い光の尾を曳きながら、流星のように飛んで行った空いろのくれよんの弾は、黒装束に身を包んだドドンパの股間を直撃して、弾け飛ぶ。
「みぎゃあああああああああああっ!」
ドドンパの絶叫が、夜空に響き渡る。他の猫人より遥かに頑丈なドドンパとはいえ、パチンコで男子の弱点である股間を撃たれたら、無事では済まない。
全身に空いろのくれよんの粒子を浴びて、全身を青白く輝かせながら、ドドンパは空中でのた打ち回る。空中でゴロゴロと転がりながら、苦しげに呻き続ける。
そんなドドンパの姿が、どんどん伴内の視界では小さくなっていく。落下し続けている伴内の視界の中で、姿が小さくなっているドドンパは、ペンチの時と同様に、空中でブレーキをかけたかのように、落下を止めつつあるのだ。