100 空いろのくれよん/ペンチとか言ったな?
「ガ、ガンマンの人?」
驚いたのは、ペンチの方である。いきなり右側をすり抜け、伴内が高速で落下して来たのだから、驚くのが当たり前だといえば、当たり前なのだが。
伴内は身体を回転させ、仰向けになってペンチを見上げる。ペンチは伴内の左上……七十メートル程の所にいた。、
(もう少し間合いを詰めた方がいいかも……)
そう思いつつも、今の自分では細かい間合いや方向の調整など、不可能に近いだろうと思い、伴内は今の間合いのまま、ペンチを狙おうと決意する。
「ペンチとか言ったな?」
伴内は出せる限りの大声で、ペンチに語りかける。空気抵抗の風圧のせいで、声は著しく聞き取り難い状態なのだが、何とかペンチには伴内の声が届いたらしく、両手を使って頭上に丸を作るペンチの姿が、伴内の目に映る。
何かをペンチは叫んでいるようなのだが、伴内に声は届かない。共に落下中であるが、風上のようなポジションにいる伴内からの声は、風下のようなポジションにいるペンチに届き易いが、逆にペンチの声は伴内に届き難いのだ。
「今から空いろのくれよんを撃つ! 当たれば良し! 当たらなくても弾を掴めたら、自分で自分に塗れ! そうすれば、お前は空を飛べる!」
ペンチは再び、了解という意志を伴内に伝えるべく、両手で丸を作る。丸を作った後、ペンチは自分の右方向を、指差す。
伴内はペンチが指差した方向に、目をやる。すると、その方向……ペンチと殆ど同じ高さなのだが、ペンチの右側百メートル程の辺りを、伏せの姿勢で落下している黒い影……ドドンパの姿が、伴内の目に映る。
「ドドンパ!」
もう一つの目標を発見した伴内は、嬉しそうに目標の名を叫ぶ。叫び声が届いたのだろう、伴内の存在に気付いたドドンパは、落下しながら伴内に手を振る。
「おめーは飛ばされてなかっただろ? 何で落っこちて来てるんだ?」
「お前とペンチってのを、助けに来てやったんだよ! 後でお前にも、空いろのくれよんを撃ち込んでやる! 少し待ってろ!」
「――りょーかいっ! た、助かったぜ、伴内!」
囁き声程の大きさしかないドドンパの声が、伴内の耳元に届く。ペンチのような普通の猫人に比べて、相当に大きな声を出せるドドンパの声は、ペンチより離れていても、伴内の耳元まで届いたのだ。