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Stylish  作者: 高菜あやめ
第一話
4/14

4. 過去の友達と

「真紀、兄貴がそろそろカットに来ないかって」

 いつもの昼休み、優香に髪先を引っ張られた。春に顎のラインで切った髪は、夏を目前にして肩につきそうなくらいになっていた。

「まだ切らなくても大丈夫だろ。なんならこのまま伸ばしてもいいし」

「そういう問題じゃないよ。それに伸ばすなら、こまめに毛先をそろえておかなきゃ。兄貴もうるさいんだよね、早く連れてこいって」

「なんでお前の兄貴が……」

 優香が笑顔をおおきくした。

「真紀に会いたいんだよ、きっと」

 井沢とは初めて優香の家に行ったとき以来会ってなかった。優香の家には学校帰りに立ち寄る程度だったから、結果的に帰宅が遅い井沢とはすれ違っていた。

 いつも夕食を食べていくよう引きとめられたが断っていた。というのも優香が「もうじき兄貴も帰ってくるから、ご飯食べたら髪をそろえてもらうといいよ」と言いだしたからだ。断ったあたしに優香は不服そうだったけど、タダでカットしてもらうなんて友達の立場を利用しているようで嫌だったんだ。


 やがて学期末のテストも終わった週末のこと。

 久しぶりに一人で出かけたら、ふと気が向いて、昔よく遊びに来た溜まり場へ足を向けた。あぶれた若いヤツラがたむろっている、賑やかでゴミゴミとした懐かしい通り道を歩いていたら、さっそく聞き覚えのある声に名前を呼ばれて振り向いた。

「真紀、真紀じゃんか!」

「亮子、久しぶりだなあ」

 亮子は昔のあたしのようにブリーチした金髪を垂らし、バッチやピンだらけのガボガボの薄汚れたカーディガンに超ミニという代わり映えのしない格好をしていた。

「やっぱ真紀だ。すっげー変わったなぁ。髪切ったんだ?」

「変?」

「いや、マジ似合うよ。すっげカワイイ」

 亮子はマスカラをたっぷり塗ったまつ毛を重そうにゆらして愛嬌のある笑みを浮かべた。なんだか急に懐かしさが募ってきて、不覚にも少し涙ぐんでしまう。

「他のみんなも元気?」

「相変わらずだよ。あたしも田島も光恵も変わってないよ。アンタは別人みたいだね、髪も切っちゃってさ」

 あたしは正面のショーウインドウに映る自分の姿に気づいて目を凝らした。普通のTシャツに普通のデニム、そして肩をかすめる髪は落ち着いた茶色……どうみても普通の女の子だった。

 なんだか急に寂しくなり、もう少し亮子とこうやって喋っていたい気分だ。どこか近くのマックでも誘うとした、その時だった。

「よう、亮子」

 目の前に学生服をだらしなく着崩した男らが三人ほど立ちはだかった。隣の亮子の顔がみるみるうちに青ざめていく。

 ――なんだよコイツら? ニヤニヤ気味悪い顔しやがって……。

 ジリジリと近づいてくる連中をにらみつけるも、むこうはあたしのことなど気にも留めない様子で亮子に詰め寄ってくる。

「この間はだまって別の男とフケやがって……今日こそ、ゆっくりと付き合ってもらうからな」

 亮子の男関係は派手だという噂は常々聞いていたが、実際にこんな場面に居合わせるのは初めてだ。亮子に話しかけた野郎は、ようやくあたしの存在に気がつくと目を吊り上げた。

「めずらしいダチ連れてんじゃねーか」

 下卑た笑いをしやがる……隣に立つ亮子があたしをかばうように身がまえた。

「真紀、早く行きな……」

 亮子が小さくささやいたが、あたしは意を決して首を振ると目の前の男をにらみ返した。

「亮子、行こうぜ。こんな野郎ほっとけ」

「真紀、あんたもうこんなことに首突っ込んじゃだめだよ。あたしは平気だからさっさと行きな!」

 あたしは必死に首を振った。亮子の顔がつらそうにゆがんだ。

「痛っ……」

 野郎が亮子の腕をつかみかけたから、必死にそいつの腕に飛びついて邪魔をした。

「このアマ!」

 男はナイフを取り出した。そしてあたしの首をしめあげると、脅すようにそいつをちらつかせてくる。

「邪魔すんじゃねーよ、このクソ女」

「はなせ!」

 渾身の力で男のすねをけり上げた。すると男はうめき声をあげながら、あたしをアスファルトの地面に突き飛ばした。

 上から抑えこまれそうになり、なんとか逃げようと必死にもがいているうちに髪の毛をつかまれた。ザクッ、と鈍い音が耳元でし、目の前にハラハラと茶色い束が舞った。

「真紀、早くこっち!」

 亮子に手を引かれるまま手薄な方向へ走りだした。そしてそのまま、裏路地を抜けて大通りへと紛れこんだ。

 ようやく最寄駅の駅ビルの裏口までやってきたとき、亮子があたしにふり返って息を切らしながらつぶやいた。

「真紀、ごめん……髪」

「いいよ、こんなのすぐ伸びるから」

 亮子と別れ、その足で駅ビル内のトイレへ向かった。中には二人ほど先客がいたけれど、あたしの様子に見て見ぬふりをしていた。

 洗面台の鏡に映った姿はみじめなほどボロボロだった。Tシャツの袖は破れ、肘と両手はすりむいて血がにじんでいた。腕はところどころミミズ腫れが走っていて、頬にも擦り傷と泥がこびりついていた。そしてなにより、髪の毛が片側だけ耳元でザックリと切られてしまっていた。

 あたしはのろのろと顔を洗いながら途方に暮れていたが、ふと思いついて携帯を取り出した。

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